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   黒猫の希い 6   


ショーの訪問から暫くして、キョーコは牢から刑場へと引き出された。

通ってきた回廊には、入り口に真っ赤な天鵞絨(ビロード)のカーテンが引かれた部屋が回廊の両側、無数に存在していた。
キョーコを先導する死神が歩みを止めたその先の部屋を見ると、それまでのカーテンの色とは違い、黒の天鵞絨が掛かっていた。


今までに処刑された死神の数だけ、黒いカーテンの部屋があるって事ね?
そしてこれからも、罪を犯す死神の為の準備ができてるんだ…。
もしかして、人間がいつ死ぬか定められているみたいに、死神の死も定められてるんじゃないかしら?

自分が入ろうとしている部屋に付けられたプレートには135という数が振られていた。
キョーコは自分が処刑される135人目の死神という意味だろうと悟った。

黒猫の希い 6


処刑場には、それぞれ装束を身に纏った5人の死神がキョーコを待っていた。
5人の出で立ちにキョーコの足が竦む。

鶏冠(とさか)の赤い、ギョロリと目を見開いた茶色い鶏の首から上の張りぼてを被った死神、
目の部分だけをくり抜いた、装束と揃いの白い布を被った3人、そして黒い布を被った死神がキョーコを迎えた。

罪状を読むのは、鶏頭部の張りぼてを被った死神。

「罪人、キョーコは己の欲望を満たさんが為、人間、久遠・ヒズリに定められていた運命を捻じ曲げた罪により死神の翼の落翼を以て死神籍からの抹消、人間への追放処分とする」

まるで今日の天気を語るように、ただそれだけの事だと言うように、抑揚の無い声でキョーコに告げた。
それを合図にナイフを持った死神がキョーコに近づき、キョーコの長い黒髪をグッと一掴みにする。

「痛っ…」

バサリ

腰まであったキョーコの長い艶やかな髪は、乱雑に、首が見える程に短く切り取られた。
床に落とされた、自分から切り離された黒髪をキョーコは茫然と見つめた。

コーン…ごめん。せっかく褒めてくれたのに無くなっちゃった…

『キョーコちゃんの黒い髪、すっごく綺麗だよ?伸ばせばいいのに』

コーンの何気ない一言で伸ばした黒髪は、無残にも一瞬で無くなった。

やがて大きな石で作られた祭壇のような処刑台にキョーコは横向きで寝かされた。
白い布を被った死神が、キョーコの背中からぐっと力任せに濡れ羽色の翼を引き出す。

「うぅっ…」

死神の翼…この翼の力によって、死神は己の姿をカラスや猫といった動物に変え、また大気中の栄養素や力を吸って治癒力を高め、永遠の命の糧を得ていた。それを奪われれば、到底死神とは呼べない存在になる。


白い布を被った屈強な死神が3人、キョーコの肩と腕、翼、脚を押さえる。

キョーコは来たるべき衝撃に備えてギュッと目を瞑った。


「…じゃーな、キョーコ」


黒い布を被った死神が、声を震わせながらキョーコに声をかけると同時に、翼の付け根に斧を振り下ろした。


ぶつり、と翼をもがれて、背中に焼ける様な衝撃を感じた次の瞬間、絶叫が体の奥底から迫り上がってきた。

「きゃぁあああああああ!!!!」

体中に鳥肌が立ち、冷や汗が一瞬にして吹き出して、涙があふれ落ちる。
翼をもがれた背中からは赤い血がとめどなく流れ、処刑台を、キョーコを押さえる死神たちの白い装束を赤く染めていく。

「あああああああああああああああああああ」

見開いた瞳は黒から茶に変わり、振り乱した黒髪も茶色へと変化した。

___ もうお前は闇の属性ではないのだと言うかのように ___


キョーコは叫びながら意識を失った。

「キョーコッ!!!」

翼をもいだ、黒い布を被った死神が斧を投げ捨て、意識を失ってもなお全身が痙攣するように震えるキョーコの体を、ちから一杯抱きしめた。

「キョーコ、頼むから生きてくれ!無事に還って来てくれよ!!」



**



翼を失ったキョーコが気づいた時、そこは仕事で見慣れた場所、人間界だった。
スクランブル交差点をたくさんの人が行きかう中、キョーコはふらふらと歩いていた。

気を緩めれば背中の痛みで気を失いそうになる。

早々にキョーコの様子に声をかける人物は現れた。
1人目は女性、2人目は子供。気遣わしげに、心配そうにキョーコに声をかけた。

声をかけられる度にキョーコは期待し、落胆した。

___ 99人目までにコーンに会えれば、死神に戻してやる ___

別に死神に戻りたい訳じゃない。
ただ…ただ、99人目までにもしかしたらコーンに会えるのではないか、もう一度コーンをこの目で見られるなら、それだけで人間になった甲斐があるとキョーコは思った。その蜘蛛の糸のように細く頼りないモノに縋った。

コーンに会いたい…

その一念でキョーコは激痛の走る背中を庇いながらひたすら彷徨い歩いた。

ソックスとして見守っていた頃のコーンは野良猫にミルクを与えてくれる優しい少年だったのに…
あの日、青年に成長していたたコーンは荒んでて本当にびっくりしたのよ?
今…大人になったコーンはどうしているの?幸せになってる?それだけ教えて。どうか、少年のころの優しい眼差しで笑っているコーンを一目見せてよ…


そして彷徨って

結局99人目までにコーンには会えなかった。



**



「よう、久しぶりだな。今日は何の用だ?」

病院の廊下で偶然出会った、ジロリとにらむ黒崎医師に蓮はため息を噛み殺した。

仕事で東京を離れていた間、気にはなったけど様子を見に来るくことも出来ないのだから仕方ないじゃないか。

「…あの子の様子を見に来たに決まってるじゃないですか。その後どうですか?」
「はっ。よく言うよ。死んじまおうが気にもならなかったくせによ」
「え、死んだんですか?」
「バカヤロウ。俺が殺すか!」

生きていると聞いてほっと肩の力が抜けるのが自分でも分かった。
そうさ、自分が病院に担ぎ込んだ人間が死んだとなれば、何の関りがなくても後味が悪いに決まっている。
良かったじゃないか。…そうだな、顔を見て帰ろう。これで一区切りできるはずだ。

「あの子は…」
「…ついて来い。初の見舞い客だ、特別に案内してやるよ」

黒崎は無言で蓮を伴い、靴にぺたぺたと張り付くリノリウムの床を歩いた。
病室に入ると、南向きの窓からあたたかい日が差す真っ白い空間に、規則正しい電子音が鳴っていた。
ベッドの上でキョーコは酸素マスクや沢山の管を巻きつけていた。

「こんなにいろんな物をつけられてる割に、随分穏やかな顔で眠ってるんですね」
「ICUから出て2日だ。それが重装備も外せそうなくらいに順調に回復してるってことだよ…ほらよ」

ごそごそと白衣のポケットから取り出したものを蓮に手渡した。

「コレ、この子の首にかかってた革紐に括られてた。革紐は血を吸って壮絶なことになってたから捨てたぞ」
「はぁ」
「…あぁ、そうだったよな。お前の身内ってわけじゃなかったな。どうでも良いよな」

まったくこの医者、デリカシーとか一切無いな。

ムッとしつつも渡されたものを見て蓮は驚愕して目を見開いた。

「こ れ…は」
「なんだろうな?何か宝石の原石っぽいけど、凄く大切なものっぽかったぞ。運び込まれた時に外そうとしたら急に目覚めて、最後の力を振り絞るように暴れに暴れたよ」

ほら、と黒崎は腕に僅かに残る噛み跡を蓮にさらした。

「その挙句気を失って…。一度3日前に目ぇ覚ました時もまずこの石を探してた。よっぽど大切なものなんだな」

これは…この石は、泣いてばかりいた黒髪の女の子に…子供の頃のキラキラ輝く大切な思い出の中の…俺をコーンと呼んだ初恋の子にあげた石じゃないか!

蓮は凝視していた石からベッドへと視線を移して、一歩ずつ少女へと歩み寄る。
浅く息をする真っ白い顔の少女を覗き込み、蓮は恐る恐る、頬に震える手をあてた。

「…キョーコ、ちゃん?」
「あ?」

あたたかい…本当にキョーコちゃんなの?

思い出の中の君が俺の目の前に現れるなんて、どういう天の采配なんだ?
しかも瀕死の状態で…俺はまた大切なものを目の前で永遠に失ってしまうところだったのか!?

どうして俺は一目見てキョーコちゃんだと気がつかなかったんだ!!もっと早くに病院に連れてきてあげていれば!
社長になんか連絡せずに、なぜ俺はすぐに救急車を呼ばなかった!

雨の中、キョーコが辛そうに倒れていた姿を思い返して蓮は己の愚かさを呪った。


両手で自分の顔を覆ってその場に膝から崩れそうになるのを何とか堪えていた。
そんな蓮の様子に黒崎は心配になって、蓮に近寄り声をかけた。

「おい、どうした。大丈夫か?」

指の隙間から自分を覗き込む黒崎を認めた瞬間、蓮はガバリと黒崎の両手を掴んだ。

「うぉっ!?なんだよっ!」
「ドクターお願いです!彼女を…キョーコを助けてください!お願いします!どうかお願いします!!お願いしますお願いしますお願いします」

蓮は黒崎の両腕を掴んだまま、壊れた人形のようにがくがくと頭を下げ続けた。

「お、おいっ落ち着けよ。お前が来なかった間に山は越してるんだぞ?それを今更そんなに取り乱してどうするんだよ!」
「お願いします、お願いします、お願いします…」


どうか神様、これ以上俺の大切なものを奪わないでください。




つづく




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