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   黒猫の希い 8   


コーン、今頃どうしてる?笑ってる?
私は檻の中だけど、こんなのへっちゃらよ?出られないだけで、ちゃんと風が外の香りを運んでくれるのよ?
目をつむれば、ちゃんと外の景色が浮かぶもの。
小さい頃にコーンと遊んだ森の景色だって浮かぶわ。
コーンが私に笑いかける顔に、私も笑顔で応えるの。

コーンが…この石があれば、あの幸せな時間はマボロシなんかじゃなかった、現実だったって教えてくれるもの。
コーンさえあれば、私はへっちゃらなの。


黒猫の希い 8


病院に戻った蓮は、キョーコの病室を目指して夢中で走った。途中看護師に注意されても、耳には入らなかった。
エレベーターを待つ時間も惜しく、蓮は階段を駆け上る。

キョーコの病室のある階に大きな足音を立てて辿りつくと、階段前にあるナースステーションで待っていた黒崎が蓮に話しかけた。

「おう、早かったな」
「彼女は、キョーコちゃんは?」
「今は看護師があやしてるよ」
「あやすって…とにかく病室に行きます」
「あっこら!廊下は走るなって怒られるぞ!!」
「怒られ済みです!」

蓮は黒崎の声を無視してキョーコの病室を目指した。

「キョーコちゃん!」

ドアを開けながら蓮はキョーコの名前を呼んだ。

見れば部屋の中央、ベッドの脇で看護師がオロオロとこちらを見つめている。
キョーコがいる筈のベッドは布団がこんもりと盛り上がっていていた。

「なんだ、どうした?」

蓮の後から病室に入った黒崎が看護師に間延びした声で話しかけた。

「泣いていたので落ち着かせようと思って、背中をさすろうとしたんです。そうしたら急に…それまで私がいることにも気づいてなかったみたいで、ビックリして布団を被ってしまったんです」

黒崎は頭をポリポリとかきながら、いかにも仕方がないといった顔で看護師の肩をポンと叩いた。

「分かった。大原ちゃん、サンキュー。ここはもういいから持ち場に戻ってくれ」
「え…は、はい」

蓮をチラチラ見ながら看護師は部屋を出ていった。


「キョーコちゃん、石を持ってきたよ。黙って持って行ってごめんね?」

蓮は逸る(はやる)気持ちを抑えて、ミノムシのように布団にくるまったキョーコに近づき、優しく語りかけた。

「キョーコちゃん?」

キョーコはそろそろと目までを布団から覗かせて、キョロキョロと辺りを窺う。
不安そうに両眉を下げて、泣きはらした両目はウサギのように真っ赤になっている。

「ほら、石だよ」

キョーコの大きな茶色い瞳に碧い石が映った途端、ぱさりと布団を跳ね除けてキョーコは顔を出し、ついっと蓮に手を伸ばした。

蓮は震える指で石をキョーコの差し出した手のひらに石を置く。


キョーコの手のひらに蓮の指が触れる。


「良かったぁ。コーン…私、とうとう独りぼっちになっちゃったのかと思ったのよ?」

キョーコはコーンと呼んだ石をギュッと握り締めた手を胸元に置いて、ふわりと笑った。

その声に、表情に、蓮は固まった。

「どうもありがとう…」

キョーコは蓮を見上げてお礼を言った後、安堵の表情でふーっと息をつくとそのまま眠りについてしまった。


昔のままだ…。大切な思い出からそのまま大切な女の子が抜け出して俺の目の前に現れたんだ。

大切にしたいものなんてもう何一つ残ってなどいない、この先作ることもないと思っていた俺の前に君が現れるなんて…
許された気がしてしまうじゃないか!大切なものを手にとって良いと言われている気になってしまうじゃないか!!


蓮は口に手をあててグッとせり上がる感情と涙を堪えた。


「あのよ、感動の対面の直後で悪いんだけど、用は済んだから帰っ「帰りません」」
「…だよねぇ…じゃあ話があるから、落ち着いたらナースステーションに顔出してよ」
「…分かりました」

黒崎は蓮を残して病室を出た。

蓮ははだけた布団をキョーコに掛けてやり、涙で濡れた頬を指でそっと拭った。

「ん…コーン…」


俺があげた石を、こんなにも大切にしてくれていたんだね。

ただそれだけで蓮の心は満たされる思いだった。


深い眠りについたキョーコの呼びかけが、蓮の心に一筋の光のように差し込んだ。


安心しきった表情で眠るキョーコを、蓮はただ見つめていた。



「おう。見飽きたか?」
「…病室に戻っていいですか?」
「可愛くないなぁ。あんた、夕飯まだだろ。向かいのラーメン屋に行こう。2時までやってるんだ。滑り込めるだろ」
「結構です」
「相談があるんだよ」
「…わかりました」

黒崎の真剣な顔に、蓮は相談内容が気になって同行を了承した。


カウンターしかない、古ぼけた店のテレビでは、お笑いタレントのトーク番組が流れていた。
それを蓮はぼうっと眺め、黒崎は煙草を吸いながら他に客がいないカウンターに座り、ラーメンを待っていた。

「ラーメン2丁お待ちどうさま」
「さんきゅー」

運ばれてきたシンプルな醤油ラーメンを受け取り、黒崎は食べ始める。

「ここのラーメン、小汚い店の癖に鶏ガラが効いてて旨いんだよ。昼間は行列できるんだぞ?うちの患者のな」
「…で、相談とはなんですか?」

箸を付けることもなく、蓮が話を切り出した。黒崎は構わずラーメンをすする。

「彼女、キョーコちゃんが目を醒ましたとき、少しだけ会話したよ」
「何て言ってました?」
「…身寄りはないそうだ」
「そうですか」
「随分あっさりしてるな?」
「ええ…」

蓮は言葉を濁した。

幼いころ、確か母親はいない、父親ともほとんどあったことが無いと悲しそうに教えてくれた…
そう言えば兄がいたはずだが、どうしたのだろう。
彼女を探しているのだろうか。

眉を寄せて考え込む蓮を見て、黒崎は顔を顰め、箸を止めた。

「暗い気分になってるところに追い打ちをかけて悪い」
「何ですか?」
「…あの傷を負わせたのは父親だそうだ」


黒崎は苦しそうに顔を歪めながら、ラーメンを食べた。

「先生ー、もう少し旨そうにラーメン食べてよぉ」
「おうっ!大将、旨いよ!!滅茶苦茶うまいよ。これが無かったら、俺のガラスのハートは今頃粉々よ!」
「わかんないけど、医者と患者の身内は体力勝負だ。お兄さんもちゃんと食べろよ?」

蓮は箸を割り、ラーメンを無理やり口に運んだ。食欲は全くないけれど、何かをしていないと気が狂いそうだった。


再開までの10年、君は一体どんな想いをしてきたの?あの石だけが君の救いだったとでも言うの!?
もし、あの石を支えに生きてきたと言うのなら…俺の出来うるすべてをキョーコちゃんにしてあげる。
かけがえのない…
穢れのない思いでの中から俺に助けを求めて飛び出してきたのなら、俺が絶対に助けてあげるから。


今度こそ大切なものを俺の手で守ってみせる。



つづく



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