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   黒猫の希い 16   


お忘れかと思いますが、続いております。細々と。細すぎてブッツリと途切れていた感が否めません。
でもまだ続きます。。ノロノロですみませーん。


「キョーコちゃん、退院おめでとう。元気になって本当に良かったわ」
「愛理ちゃん、ありがとう」

うららかな日差しが降り注ぐ日の午後、キョーコは蓮が用意した服に着替えて、蓮と共にナースステーションに退院の挨拶に寄っていた。
この日の為に蓮が知り合いのスタイリストに用意してもらったと言う、ふんわりと広がるフレアシルエットの花柄のワンピースを着たキョーコは、笑顔で挨拶を交わしていた。

「当分の間、背中が引き攣るとは思うがそのうち良くなる。とりあえず1週間後に外来で診察に来い。特別に俺が診てやるよ」
「…」

キョーコはそれまでの笑顔を曇らせて、視線を黒崎から外した。

「おい、どうした?」
「…診察が無くても…会いに来てもいい?」
「遊びにか?」

視線を外したままコクンと頷くキョーコを見下ろして、黒崎は困ったように笑った。

「来るな来るな。コッチは忙しいんだ。元気な奴の相手なんかしてられねぇよ」
「…」
「どうしても俺様に会いたいって言うなら、病院じゃなくてそこのラーメン屋で待ち合わせだ。旨かったろう?」

自分と会ってくれるという言葉にキョーコがぱぁっと目を輝かせて顔を上げると、そこには黒崎の破顔があった。

「うん!」
「ちょっと、いつの間にキョーコちゃんと病院を抜け出していたんですか?院長ずるいですよ!!」
「良いじゃねぇか。夕飯を食いそびれる程働いたんだ。カワイ子ちゃんとショボくれたラーメン屋で深夜デートしたってバチは当たらないだろう?」
「誘ってくれたっていいじゃないですかー!あそこのラーメンだったら、私だって食べたかったですよ」

愛理と黒崎のやり取りを、キョーコはニコニコと笑って眺めていた。

「先生、愛理ちゃんと結婚するの?」
「ほ?」
「えぇ!?やだっキョーコちゃんったら何を言い出すの?もーっ、からかわないでよぉ」

ふふ。愛理ちゃん、真っ赤になって慌ててる。黒崎先生も愛理ちゃんを見て楽しそうに笑ってる。

…いいなぁ。

「私、先生も愛理ちゃんも大好きだから幸せになって欲しいな」
「だからそんなんじゃないのよぉー」
「愛理ちゃん、素直にならなきゃ駄目よ?」

最期を迎えた時、あれもやりたかった、これもやりたかったなんて後悔に押し潰された人を、数えきれないくらい見続けてきたんだもの。
いつか必ず訪れるその日に、大好きな2人には絶対にそんな風に思って欲しくないの。

迎えに来る私の仲間に、お願いだからそんな悲しい話は絶対にしないでね?

「もうっ!キョーコちゃんこそ敦賀さんの事をどう思っているのよ!!」
「ふえっ!?」

どうしたらいいのか分からなくなった愛理の口から、いつも喉元にまで出かけては飲み込んでいた言葉がポンッと勢いよく飛び出した。

突然の話題転換に、少し感傷的になっていたキョーコはうまく追いつけずに変な声が出てしまった。

「だって敦賀さん、キョーコちゃんの為に寝る間も惜しんで病院に通っていたじゃない。今日だって仕事の合間でしょ?毎日のようにお見舞いに来るなんて、キョーコちゃんの事が大好きなんだってみんなが噂をしていたのよ?」
「えぇっ!?噂って…」

キョーコはびっくりして愛理やナースステーションに居る医師や看護師たちを見渡せば、みんな興味津々、キョーコの答えを聞き逃すまいとこちらを窺っている。

「あわわわわ」

周りをぐるぐると見渡して挙動不審になったキョーコに、蓮はくすくすと笑いながら耳元で囁く。

「ねぇ、キョーコちゃん。俺の事、どう思っているの?」
「ひょわっ!!」

突然の囁きに、キョーコはピシリと固まった。

どう思っているかなんて、ちゃんと考えた事なんて無かったわ!
もちろん蓮の事は大好きよ?とっても優しいし、いつも私を笑わせようとしてくれるもの。
蓮がそばに居るだけで、私も笑顔になってしまうもの。

だけど…

愛理ちゃんと先生の関係みたいに…人間が愛し合う感情なんて…私には分からないよ…
どこからが愛情なの?そもそも私がコーンを好きって感情と、蓮を好きって感情の境界もあやふやで… 分かんないよ。

キョーコの顔が困惑に歪む。

「キョーコちゃん?」

「大原さん。患者さんのプライベートに立ち入りすぎよ?」
「あっ…すみません私ったら…ごめんね、キョーコちゃん」

飯塚婦長に窘められて、愛理が我に返って小さくなる。

「みんなの前で敦賀さんの事を聞かれて、からかわれたって思っちまったんだろう。キョーコちゃん、大原の事を許してやってよ。ほら、ご祝儀代わりにさ」
「えぇっ!ご祝儀って…やっぱり院長と大原さん、結婚するんですか!!」

周りに居る看護師たちの興味は、蓮とキョーコからあっという間に黒崎たちへとスライドした。


「さ、キョーコちゃん。そろそろ行こうか」
「うん。愛理ちゃん、先生またね!ありがとうございました!!」

飯塚婦長や入院中にお世話になった人達に笑顔で手を振って、キョーコは蓮に支えられながらナースステーションを後にした。


キョーコは歩きながらチラリと蓮の顔を見上げると、不機嫌そうにムッとした顔をしている。
困ったよう眉を落とす顔を見た事はあっても、怒った顔を見た事が無かったキョーコはシュンと項垂れた。

どうしよう、愛理ちゃんに私の事をからかわれたのが嫌だったのかな?それとも私がちゃんと蓮の事を大好きだって答えなかったのを怒っているの?
大好きだけど、それって…

「…ねぇ、キョーコちゃん。いつ黒崎院長と食事に行ったの?」
「え?…えっと、2、3日前かな?」

蓮の事をぐるぐると考え出していたキョーコにとって、黒崎と行ったラーメン屋の事など頭の片隅にうっちゃられていた。
何故そんな事を聞くのだろう?と訝しみながらキョーコは蓮を見上げる。

「そんな話してくれなかったじゃないか。先生と真夜中に抜け出していたなんて」
「だって先生が皆に内緒だって言うから…ごめんね?」

そっか、私が内緒にしてた事に蓮は拗ねてたんだ!

「ラーメンを食べたら、特別にその日4つ目のカンカンを食べてもいいって言われたの。でもね、みんなに内緒だからスクラップノートにも書いちゃ駄目だって」
「ふぅん…キョーコちゃんを連れ出すのに、缶詰をエサにしたのか…」
「蓮?」
「何でもないよ。で、ラーメンは美味しかったんだ?」
「うん。美味しかったよ!…あれ?もしかして蓮、お昼食べてないんじゃない?いつもお昼頃来てくれる時は病室で食べていたもの。今日は食べてないんでしょ?」
「そういえば食べてないな」

今日は早朝から働いてるから、朝からコーヒーしか…
ん?黒崎院長と深夜デートしていた事にムッとしていた筈なのに、いつの間にか俺の食事事情に話題がすり替わってるぞ?

「先生に教えてもらったラーメン屋さんに行こうよ!すぐそこにあるのよ?」
「うん…じゃあ行こうか」

そっかそっか。私が蓮に内緒にしていたことを拗ねてたのね?
ふふ。蓮ったら子供っぽい所もあるのね。何だか可愛い…私を守ろうとしてくれてる人の事を可愛いだなんて、何だか変じゃない?

笑いながらキョーコは蓮の手を握り締めて、お店はあっちだと指を差して歩き出す。
不意にキョーコから手を握られた事に驚いた拍子に、蓮の不機嫌がポンと頭から弾き出された。

キョーコちゃんの隣にいつでも居たいのに、院長にその場所を奪われていたのかと思ってモヤモヤしていた気持ちが、君の何気ない仕草で一瞬で消えたよ。
…本当に君は何も思ってくれていないの?

くすりと笑って蓮はキョーコの手を握り返した。



「いらっしゃーい!…ってお嬢ちゃんじゃないか。今日はパジャマじゃないんだ?しかもイケメン連れてきやがって。チキショー日替わりか?あんまり男を弄ぶなよ?」
「弄ぶって、違いますよー。黒崎先生は愛理ちゃんと結婚するんだから、弄ばれたのは私ですよー」

笑いながら軽口をたたき合うキョーコと店主の会話に、店にいた愛理ファンの客たちが頭を抱えた。

「お兄ちゃんには狭いかもしれないけど、お嬢ちゃんは背もたれがあった方がいいだろう?小さくて悪いけど、そこのテーブル使って。注文はラーメン1丁でいいね?」
「え?2杯…」
「やめとけ!この前来た時だってお嬢ちゃんは一口食べて満足しちゃったんだ。代わりに黒崎先生が2杯食べてたぞ?真夜中の2時過ぎに!」
「そうですか。じゃあ1杯でお願いします」
「うぅ。バラされた…」
「あはははっ」

情けなさそうに眉を下げるキョーコと、缶詰を美味しそうに食べるキョーコを恨みがましく見つめながら2杯のラーメンをすする黒崎を思い描いて、蓮は声を立てて笑った。

蓮は一度だけこの店に黒崎に連れて来られた事があった。キョーコに重傷を負わせたのが父親だという話を聞かされた息苦しい思い出の場所に、笑顔のキョーコと再訪していた。

あの時は本当に暗澹とした気持ちになったのに、今は今日の日差しのように穏やかな気持ちだよ。
キョーコちゃんが笑ってくれる。それだけでこんなにも満たされた気持ちになるんだな…。

「ラーメン1丁お待ちどうさま」
「ありがとうございます」

ラーメンをすする蓮を、キョーコはニコニコと見つめている。

「?どうしたの?」
「ううん。蓮が美味しそうに食べてるから、美味しそうだなぁって思ったの」
「じゃあ、一口食べる?」
「うん!」

キョーコが自ら缶詰以外の食べ物を『食べたい』と言った事に、くすりと笑いながら蓮はラーメンをキョーコの前に置いてやる。

「あ、一口だからお箸も蓮のでいいよ。貸して?」
「えっ…うん」
「ありがとう」

俺が使っていた箸をキョーコちゃんが使うだけじゃないか。…俺は一体何を動揺してるんだ?

ホクホク顔のキョーコがラーメンをすすろうと前屈みになり、蓮の内腿にキョーコの膝が”ちょん”と触れた瞬間

ぞくりと蓮の全身を何かが駆け巡った。

何だ?今の感覚は…まるで身震いするような…こんな感覚、今まで感じた事なんか無いぞ?

「ありがとう。やっぱり美味しいね」
「…うん」


満足げにラーメンを蓮の前へと押し戻すキョーコの顔を、蓮はじっと見つめ続けた。



つづく



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