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   黒猫の希い 25   


多分、起承転結の転に足を突っ込めたんじゃないかと思います。
でも甘くないし、暗めだし。どうしたものか…。


「社長、どうしても選ばなくてはいけないんですか?」
「ほう。蓮お前、この仕事が不満だとでも言うのか?」

渋谷へと向かうキョーコたちを見送った後、ローリィの書斎に通された蓮は、ニヤニヤと笑うローリィに2つの封筒を目の前に突き付けられていた。
その白い封筒の1つには『怖いの』、もう一方には『甘いの』と書かれている。

「不満なんてありません。急なオファーとは言え、俺を指名してもらえるなんてありがたいと思ってます。その仕事、選ぶんじゃなくて両方お受けする事は出来ませんか?」
「ばっバカ!既にギチギチのスケジュールにもう1本どころか2本の映画撮影を捩じ込むなんて、無理に決まってるだろ!社長も蓮を殺す気ですか!!」

蓮が所属する芸能事務所の社長であるローリィと、担当俳優である蓮の会話を、マネージャーの社は慌てて遮った。
蓮は若手人気No.1俳優だ。世の女性を虜にする端正な顔立ちとその演技力を持つ蓮がテレビに映らない日など無い。今だって今クールのドラマの主役を務めているのだ。
スケジュールを把握している社が脳内でペラペラとスケジュール帳を開いてみても、もう1本の映画撮影の時間を捻出する余裕など無い。

「流石に2つは無理だろうから選ばせてやろうと思ったんだよ。あ、大丈夫大丈夫。両方とも主役じゃねぇし」
「うぇぇぇっ!?蓮が主役じゃない?」


**


人が多く集まる街に出掛け、ショッピングを楽しむことも無く、往来を行き交う人の顔だけをキョーコは歩きながら見つめ続ける。
疲れたら道端に座って。キョーコはコーンを探し続けた。

「ねぇ、そろそろ本気で休みましょうよ。ほら、あそこのカフェ」

奏江が指し示した紅い屋根が張り出した可愛らしいカフェをちらりと見た後、キョーコは疲れた顔をしつつも首を横に振った。

「あそこからじゃ、歩いている人の顔がよく見えないよ」
「でもいい加減疲れたでしょ?」
「まだ大丈夫だよ」

奏江はため息をついた。

渋谷の駅前交差点からセンター街、スペイン坂、道玄坂。人が行き交う路を、キョーコは人の流れに逆らうように、すれ違う人の顔を確かめるように歩き続けていた。
ぶつかりそうになるのを躱しながら歩くので体力の消耗も早い。

それなのに、もう3時間は歩き続けている。

突然キョーコの正面に現れた若い女の子たちの集団を避けようとして、転びそうになったキョーコを奏江が慌てて支えた。

「もうっ!どんくさい子ねっ」
「どんくさくなんかないよ。ちょっとよろけただけだよ」

その時に、キョーコの足取りがヨロヨロと覚束ない事に気付いたのだ。

「何がちょっとよ。もうフラフラじゃないの!お店に入るのが嫌なら何か飲み物を買ってきてあげるからここで待ってなさい」
「うん。モー子さん、ありがとう」
「絶対にこの場所を動くんじゃないわよ?いいわね?」

うん、と頷くキョーコの顔色は悪い。とっくに限界だったのだ。
もっと早くに気付いてやるべきだったと奏江は眉間を顰めた。

『見つかりっこないんだから、もう諦めて帰ろう』

この30分の間に何度口から飛び出しそうになっただろう。その言葉をぐっと飲みこんで、奏江は苛々としながらキョーコの後ろを歩き続けた。
大勢が行き交う街。しかもこの街にいる可能性さえほとんど無いというのに、必死に目を凝らしてたった1人の人間を見つけようするキョーコを奏江は放っておけなかった。


少し休ませた後、屋敷へ連れて帰ろう。もうこれ以上危なっかしい足取りで歩かせるのは無理だ。
社長に連絡をして側近のセバスチャンに迎えに来てもらおう。15分も待てば豪華なリムジンで迎えに来てくれる筈だ。
一緒に歩き回った自分も疲れているのだから、少しくらい自分も楽をさせてもらおう。

そう思いながら奏江はスマホを取り出しながらカフェへと1人入って行った。


10分後、アイスチャイ ラテを持って店を出た奏江は、信号を渡った先で待っている筈のキョーコを探す。
すぐにキョーコを見つけた奏江の眉間に皺が寄った。

キョーコは2人連れの男に絡まれていた。

またか、と奏江は小さくため息をついてキョーコの傍へと歩を進めた。
知らない人物から話しかけらたキョーコは、座りこんで膝を抱えた腕に頭を沈めてフルフルと首を振っていた。


自分が心を開いた人物としか会話が出来ない。キョーコは人を怖がっている。


その様子をローリィ達は、虐待を受けてきた心の傷がそうさせているのだろうと解釈していた。
父親から受けたという背中を抉るような大きな傷を持つキョーコに、誰もが敢えてその理由は聞かなかった。

本当は、キョーコは死神だった自分への報復を恐れていた。

死に逝く人間の道案内として差し伸べた手は、自分の死を受け入れられない人間にいつだって払い除けられた。
赤く腫れ上がった手をもう一方の手で握り締めて、トボトボと自分の後をついて来る人間の憎しみのこもった視線を背中に感じながら。
それでもキョーコは死神として己の仕事を全うし続けた。


いつか自分が死神だったことがバレるのではないか。そうなったら、後ろ指を指されて罵られて、また暴力を受けるのだ。
死神だった自分に優しくしてくれた人間は、今までコーンの他に居なかったのだから。

本当の理由を知らないローリィは、リハビリを兼ねて、キョーコが疲れない範囲で街に出る事を了解した。
街で沢山の人と接して、少しでもキョーコが人に心を開くことを覚えてくれれば。

どんなにキョーコが必死にコーンを探しても、そこにコーンが居ないことを知りつつ、ローリィはキョーコを送り出していた。



そんなキョーコの怯えた様子さえ新鮮に映るのか、茶髪の男たちは興味深そうにキョーコを挟んで座りこんだ。

これは拙い。怯えて泣き叫ぶ前に助け出さなくては。
信号が青になると同時に、奏江はキョーコの元へと駆けだそうとしたその時、キョーコを見つめる奏江の視線を黒い大きな影が遮った。
進路を妨害された奏江は、驚いて大きく前に出そうとしていた一歩が小幅になる。
邪魔をされた気持ちになって大きな影を睨みつけると、それは真っ黒い服を着た背の高い男の背中だった。
その男が長い脚で地面を蹴り、全速力で向かう方向を見て奏江は驚愕した。

その視線の先にキョーコが蹲っている。


怯えなくて大丈夫だと、ニヤニヤと笑いながらキョーコの頭を撫でようとしていた男の腕が、誰かに力一杯掴まれた。
激痛に悲鳴を上げる暇も無く、訳が分からないうちにわからないうちに払い投げ飛ばされた。

一瞬の出来事に呆然としていたもう1人の男が我に返ると、カッと頭に血を登らせた。

「なんだよお前…ヒィッ!!」

連れを吹き飛ばした男に掴みかかろうと立ち上がり男を睨みつけた瞬間、喉が詰まった。

容赦ない殺気を纏いながら、吸い差しの煙草を噛みしめている黒づくめの大男を真正面に構えた途端、怒りで真っ赤にしていた顔が一瞬で青ざめた。
放り出されたもう1人も、道路に転がったまま立てずにいる。

鋭い視線に身を射竦めた男達を見据えたまま、大男は噛みしめていた煙草を吐き捨てた。

「…失せろ」

怒気を孕ませて、腹の底から呻るように吐き出された一言に、男たちは脱兎の如く逃げ出した。
そしてその声に、両腕に埋めていた顔をキョーコは勢いよく上げた。

キョーコは自分を見下ろす、研ぎ澄まされた刃の様な視線と殺気という鎧を纏った真っ黒い大男を見たその瞬間

花がほころぶような笑顔を見せた。


「蓮!!」


キョーコは大男の名前を呼び、立ち上がるとその大きな胸に飛び込んだ。



続く



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