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   コングラッチェ 34   


冴菜さんが本格登場しそうな本誌発売前にコングラです。
長いです。すみません。
2話に分けようかとも思いましたが、これは一気の方が良いかなと。


「本当に、最上さんのお母さんは…冴菜さんは馬鹿ですね」
「先生…」

目の前に置かれた茶碗を苦悶の表情でじっと見つめる蓮に、女将は少し困ったように声をかけた。

「結局、冴菜さんは最上さんよりも夫を選んだという事じゃないですか」

愛した人の遺志を継いで不正を暴くのだという正義感や、夫を愛している気持ちは分からなくない。
でも、冴菜はキョーコではなく夫を選んだのだ。
母親を求め続けるキョーコを、願掛けなんて身勝手な理由で拒み続けたのだ。

「大事な物から目を逸らして何をしてるんだって言ってやりたいですよ。そんなだから!そんなだから…悪い男に宝物を掻っ攫われてしまうんですよ」
「は?」

蓮は悪戯っ子のように、ニヤリと笑って見せた。
女将はポカンとした顔で蓮をまじまじと見つめた後、プッと小さく噴き出してクスクスと笑った。

「そうやね。大事に大事に、最後まで好物を取っておいたのに、それを横取りされてしまうんやから、冴菜ちゃんはやっぱりアホやなぁ」

女将は心底おかしそうに笑った。
お腹が捩れて痛いと言いながら目尻を拭っていた。

「俺は彼女を幸せにしてみせます。その間に冴菜さんは思う存分、敵討ちでも何でも勝手にやればいいんです。そして全てに決着が着いたら、最上さんを抱きしめてやればいい。俺は冴菜さんもひっくるめて抱きしめてやりますよ」
「そやな。…きっとキョーコちゃんのお父ちゃんが、その上から皆の事を抱きしめてくれるやろ」


**


カシャンッ

「んぎゃっ」
「えっ最上さん!?」

蓮が勢いよく開け放った玄関扉の前に、布をかぶせたトレーを持ったキョーコが驚いた顔で立っていた。

その日の夜、キョーコは珍しく1人で夕食を終えると、蓮の分の夕食の皿にラップをかけてトレーに乗せた。
千織には予備校の授業の合間に食べられるようにとお弁当を渡していたし、テンも遅くなるので食事は要らないとメールがあった。

いつも夕飯時になれば、お腹が空いたと言ってキョーコがキッチンで動き回るのを邪魔するかのように後ろにへばりつく蓮を、火を使っているのだから危ない、料理の邪魔をするなと追い払うのに。
そんな蓮が、夕飯を要らないという連絡も無く、顔も出さない。確か朝、蓮は出かけると言っていたが、まだ帰って来ていないのだろうか。
もしかしたらまだ帰って来ていないのかもしれない。
それでも、一応様子を見ておこうと、蓮の分の夕飯を手にキョーコが蓮の部屋を訪れたのだ。


不破家から帰って来た蓮が、そのまま自宅である千織たちの部屋の上階に籠って半日が過ぎていた。

「あっあの…お夕飯…」

カチャン、と音を立てたのは、トレーに乗せた食器がぶつかり合う音だった。
キョーコが持ったトレーを見て、蓮は苦笑した。

「あぁ、ごめん。もうそんな時間だったんだね。全然気が付かなかった。それより丁度良かった。今、最上さんを呼びに行こうと思ってたところなんだ。どうぞ、入って」

そう言ってトレーをヒョイっと受け取ると、キョーコが戸惑っているうちに、蓮は部屋の奥へと入って行ってしまう。

「せっ先生!?」
「早く早く」
「おっお邪魔致します」

慌てて蓮を追いかけると、そこは整然と片付けられた書斎だった。
本棚には経済系の書籍が納められている。机の上には、忙しなく点滅するランプが点るパソコンが1台と、蓮が触っているもう一台のパソコンが並べて置かれている。
どうぞ、とキョーコは訳も分からないまま机の前の、座り心地の良いオッドマン付きの椅子に座らされた。

「これ、見てくれる?」

そう言って蓮はパソコンのディスプレイをキョーコに向けて、ヘッドフォンからスピーカーにUSBケーブルを繋ぎ変えた。
画面を見れば、世界最大手の動画投稿サイトだった。このサイトならキョーコも音楽を聞いたり、動画を見たことがある。

「どうしたんです?何か面白いものとか見つけたんですか?」
「うん。面白いって言うか、びっくりするかな」
「まさか、一日中これを見てたんですか?」

まあね、と言って蓮が再生ボタンを押した画像は海外の風景だった。

マイクを持ったたくさんの人たちが、サングラスをかけた男に矢継ぎ早に質問を投げかけている。
早口すぎてキョーコもよく分からないが、糾弾されているようだ。
そのマイクを遮るように、スーツを着た小柄な女性が両手を振りかざしている。

「お母さん!?」

小柄な女性は、険しい顔をした冴菜だった。

どうしてこんな映像?それよりお母さんが庇ってるという事は、この人の弁護をしていると言う事?

ちらりと動画の投稿日を見れば、それは5年前の3月末だった。
きっとこの人の弁護の為に、冴菜はキョーコの小学校の卒業式に参列した後すぐに帰って行ったのだと、遠い目で動画を見つめた。

「分かった?」
「へ?何がですか?」

蓮の問いかけに、キョーコは一気に現実に引き戻された。
何が分かったかというのか。キョーコには全く分からなかった。

「32秒あたり…もう一度よく見てみてよ」

蓮の物言いを不審に思いながらもキョーコはマウスで動画を30秒くらいに戻して動画を見つめた。

振りかざした冴菜の手に、何かが映っている。小さな何かが揺れている気もする。


「ね、何かがあったろう?それで気になって、他に画像が無いか探したんだよ。そして、さっきやっと見つけたんだ」

蓮がキョーコに次に見せた動画の投稿時間は、つい先ほどの時間だった。
”新たな証言で新事実が浮上か?”と見出しに書かれている。

「時間を考えると、冴菜さんがUターンした先だろうね」
「はい…。お母さんの顔、疲れてますね。やっぱり飛行機に乗り続けたら辛いですよね」

自分に会おうとして、無理矢理時間を捻り出したのだろう。それなのに、結局会うことなくアメリカに帰って行った冴菜にキョーコは罪悪感を感じた。

「会いたいと思ったのはお母さんも一緒なんだ。最上さんがそれを心苦しく思う必要は無いよ。寧ろ笑ってやればいいよ」
「…そうですよね」

動画は、接見を終えた冴菜が刑務所から出たところでリポーターにマイクを向けられた。冴菜はリポーターを一瞥しただけで、そのまま足早に立ち去ろうとしている。
終身刑で服役中の男が、10年前の事件で新たな証言をしたと。何を語ったのかを冴菜に繰り返し聞くリポーターを無視した冴菜の腕を、苛ついたリポーターが掴んだ。

そこには

腕に巻かれた黒いゴムに、赤くコロリとした苺と、白いウサギのチャームが揺れていた。


触るなっ!と大声を発した冴菜に驚いた記者が離した腕を、ゆっくりと体の前に降ろして、右手でゴムごと左腕を握り締めた。
ゴムを、キョーコが幼い頃大事にしていたチャームを包み込むように。


ポタポタと涙が溢れて、画面が歪んで見えた。

お母さんの顔を見たくて、キョーコは何度も何度も目をまばたかせる。

「ほら。やっぱり君はお母さんに愛されてたんだよ」
「うーーーーーー」

涙が後から後からボロボロと零れて、声にならない。
喋りたいのに、言葉にならない。

「ずっと…ずっとお母さんを支えていたのは、間違いなく最上さんだよ」

右手で左手首を握りながら、記者たちに囲まれて質問に答える冴菜の表情はいつも通り感情が窺えない。


「ほらキョーコ、じっとしてなさい。今日はクマさんのゴムでいい?」
「やー。うしゃしゃんー」
「本当にキョーコはウサギが好きね。全く…1つの物に執着するなんて、誰に似たのかしら」
「おかーしゃーん」


幼い頃の、母との会話が甦る。

キョーコが髪を結ってもらっていた頃のゴムの色は、確かピンクか赤だった筈だ。今、冴菜の袖から覗くゴムの色は黒っぽい。
10年の間に、ゴムは何度も劣化したのだろう。その度にチャームを付け直して、冴菜の左腕にはめてきたのだ。
きっと苺とウサギの塗装は剥げて、ウサギの顔だってのっぺらぼうになっている筈だ。それを冴菜は誰にも触れさせないよう、大事に身に付け続けている。

冴菜の心を支える娘の分身として。


「うーーー」
「うん。本当に分かりづらいお母さんだよね。そんな髪飾りを大事に握り締める位なら、最上さんの手を握り締めればいいのにね」
「うーーーーーー」

「だから今度、お母さんの手を握り締めに行こう」
「うーーーーーーーーーっ!」


先生の言葉に、やっぱり私はうーとしか応えられなかった。



つづく。




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