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   黒猫の希い 26   


黒猫です。
淀みなくサクサクかければいいんですけどね。
なかなか難しいです。


「どうしても選べというなら、こちらでしょうかね」

蓮は急なオファーとして舞い込んだ2つの仕事から『怖いの』を選んだ。

ローリィから受け取った封筒の中身を見た瞬間、蓮の世界が止まった。

そこに書かれていたのは、世界からも注目を浴びている近衛監督の最新作、『TRAGIC MARKER』の殺人鬼、B.J役のオファーだった。
元々イギリスの俳優をキャスティングをしようと、ぎりぎりまで交渉を行っていたらしい。しかし双方が納得する契約内容となず、改めて近衛監督が納得できる俳優を探していたという。

「殺人鬼…ですか」

蓮の喉はカラカラで、何とか絞り出した声は引き攣っていた。

「どうだ?面白そうだろ?」
「…」
「おい、蓮。殺人鬼って、一体どんな役柄なんだ?」

顔を歪めたまま固まった蓮を心配した社が、蓮の手に持った依頼内容を受け取る。

ローリィが机に置かれていたシガーケースから葉巻を取出しカッターで先端を切る。火をつけて紫煙をゆっくりとくゆらせながら、蓮の表情をただ観察し続けた。


「…断りてぇか?」
「いえ…。今まで演じた事のない役柄だったので…」

蓮の絞り出すような声に、社長はクイッと片眉を上げた。

「確かに演じた事は無いジャンルだろ?いい経験になると思うんだがなぁ」

殺人鬼役の俳優との契約が白紙になった近衛監督は、切羽詰まった状態でローリィに相談を持ちかけてきたそうだ。
あと1週間後には殺人鬼、B.Jの撮影が始まらなくてはならないスケジュールだというのに、その役者が未だに決まっていない。それどころかめぼしい役者も見つからない。

目が合ったら最後、ターゲットとなった人間の血を凍らせるほどの恐怖と絶望を与える殺人鬼役<B.J>を任せられる人物を紹介してもらえないだろうかと、近衛は藁をも縋る想いでローリィに相談を持ちかけた。
聞いた瞬間、ローリィの脳裏に蓮の顔が浮かんだ。蓮というよりも、荒んだ少年時代の久遠の顔が。

もしかしたら蓮が過去の自分を、久遠を受け入れるチャンスになるのではないか。そんな思いがローリィの頭で駆け巡った。

自分を排除しようとする悪意に我を忘れ、その拳を血に染めた1度の過ちで親友を亡くし、失意のどん底に落ちた蓮をローリィは拾い上げ、日本の芸能界という、蓮の事など誰も知らない、親の七光りも届かない居場所を与えた。
ひたすら役に打ち込んだ蓮は、たった数年で誰からも高い評価を得る役者に成長した。両親の様に世界を舞台に活躍する役者となるのは、今や誰の目にも明らかだ。
その為にも、蓮が元いた場所に還る為にも、蓮が過去を、久遠を受け入れる必要があるとローリィはずっと考えていた。

真っ黒い歪んだ想いに支配されて、自分自身が制御できずに人を傷つけた過去。
B.Jはまさしくリックが死んだ夜の久遠そのものだ。蓮がこの役を快諾する筈はない。でも、どうしても乗り越えて欲しいとローリィは願った。

「そうそう。仕事自体も『敦賀蓮』じゃなく、当初B.J役をやる予定だったイギリス人の『カイン・ヒール』で受ける事にしたから。カインには社じゃなくて世話役としてキョーコちゃんを付けてやるよ。四六時中キョーコちゃんと居られるんだぞ?な、オイシイだろう」
「しゃ社長?俺を蓮から外すんですか!?」
「違うって。この仕事は蓮じゃなくて、カインで受けるって言ったろ。蓮のマネージャーのお前が居たら、すぐにバレちまうだろうが」

世話係として、撮影現場にキョーコを連れて行ってどうするのか。社がいなくても自分の事くらい自分でできる。
蓮は、どういうつもりなのかと訝しみながらローリィを見つめる。


大事な人は作らない。人殺しの自分には、人を愛する資格など無いのだ。

そう言い放った蓮が今、キョーコを心から大事に想っている。
B.Jとして己の過去と対峙し、乗り越えようとする蓮を支えられるのはキョーコだけだと、ローリィは確信していた。
そのキョーコを以ってしても乗り越えられないのであれば仕方がない。役を、カインを放棄して『敦賀 蓮』に逃げ込めるよう、最後の保険も残す万全の備えだった。


「あの子はお前のお守りだ。大事に肌身離さず持っとけよ?」

そう言ってにやりと笑った。


**


信号の先でうずくまるキョーコを、下卑た笑いを浮かべて話しかける男たちを見た瞬間、蓮は己の血が沸騰するのを感じた。
離れろ、その子に触れていいのは俺だけだと、叫び出しそうになるのを必死に抑えて、交差点の信号が青になるのをジリジリとした気持ちで待った。

青になった瞬間、蓮は怒りに身を任せてキョーコめがけて駆けた。そして彼女に近づいた男たちを、力で排除しそうになる本能をどうにか押さえ込んだ。


そんな蓮を一目見て、キョーコは目を輝かせて蓮に抱き付いて、その広い胸に顔を埋めた。


「キョーコちゃん、俺が分かるの?」
「ん?勿論分かるよ?」

どうして?と言うように蓮を見上げて首を傾げるキョーコに、蓮は纏っていた殺気を緩めてくしゃりと笑った。


 ___ あの子はお守りだ ___


ローリィが自信に満ちた顔で告げた一言を思い返した。

決心がつかないまま、ものは試しと用意された『カイン・ヒール』の重苦しい黒い衣装とウイッグを試着した時、ローリィの傍に控えていたセバスチャンの携帯が鳴った。
奏江からの迎えに来て欲しいという連絡だった。キョーコの体力が限界だと言う。

それを聞いて顔を曇らせた蓮に、ローリィは賭けをしないか?と持ちかけた。


その姿で今からキョーコを迎えに行き、キョーコが怯えるか、蓮だと気付かなかった場合はオファーを断ってよい。
キョーコが蓮だと気づき、怯えなかったらオファーを受ける。


そしてキョーコは一瞬で蓮だと見抜いた。


どんな負の感情に自分が捕らわれても、キョーコちゃんが俺をフラットな状態に戻してくれる。

『敦賀 蓮』どころか、まともな人間とは思えないような怒気と殺気をまき散らしていた筈なのに、君には一目で俺だと分かるのか。
そして躊躇なくこんな姿の俺を抱きしめてくれるなんて思いもしなかったよ。

「参った…」

蓮はキョーコの背中に手を回して優しくキョーコを抱きしめた。

「蓮、どうしたの?」
「ちょっと驚いただけだよ…キョーコちゃん、ありがとう」
「よく分かんないけど、蓮が来てくれて嬉しいの。私こそ、ありがとう」

蓮を見上げて笑うキョーコの笑顔は、まるで太陽のようだった。


続く



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