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   螺旋 1   


割と短めで終わる予定です。
良かったらお付き合いくださいませ。


「…な で…」

その背中に、今すぐすがり付いてしまいたい。

ベッドに横になったまま、シャツに腕を通している鍛え上げた綺麗な背中を見つめているうちに、つい零れ出してしまった掠れた声に、言った自分が慌てた。

「ん?」

こちらを振り返って、優しく微笑んで首を傾げながら寄って来る最愛の人を見つめて、精一杯の勇気を振り絞ってもう一度言ってみた。

「行かないで下さい」

今度はちゃんと、するんと言えた。
声が震えなかったのは、心のなかで何度も唱えてたから。

大丈夫だよね?声が上擦ったり、思いつめている風に聞こえなかったよね?

少しだけ、駄々をこねてる様に見えてるよね?

ドキドキして心臓が口から飛び出しそうだし、耳だってドキドキと脈を打つその音だけに支配されてる。
どうかこの緊張が、私を覗き込んでいる人に気付かれませんように。

ビックリしたように少し見開いていた瞳が揺れて困惑の色に染まる。
秀麗な顔を翳らせて、ゆっくりと口を開いた。


「どうしたの?最上さん」


ドクン…


「…いいえ。お土産、何が良いか聞いてなかったなって思い出したんです。何が良いですか?」

ふっと蓮の表情が緩んだ。

「お土産かぁ。ロケ先、北海道だっけ。うーん…白い恋人たち?」
「ちょっと名前が違いますよ」

クスクス笑うと、蓮もそうだったっけ?と一緒に笑った。

キョーコを見つめる蓮の顔から笑みが消えて、訝しむように眉根が眉間に寄った。

あれ、敦賀さんの顔がまた曇った。私ちゃんと笑えてるよね?

「最上さん、もしかして体調悪い?顔色が少し悪いようだ」

別に体調は悪い訳じゃない。少し疲れただけだからもう少し横になっていると言うと、大きな掌でさらさらと髪を撫でられた。

心地良さに目を瞑る。
さわさわと優しく撫でてくれる、蓮の大きな男らしい筋ばった手が、指が好きだって思った。

「ごめん。そろそろ行かないと」

ベッドサイドに置かれた時計を見て、蓮が残念そうに呟いた。

「はい。お仕事がんばってくださいね」
「ありがとう。最上さんもね」

蓮がベッドルームの扉を閉めるその瞬間まで、自分に向けている笑顔では無く、自分から離れて行った指をキョーコは追い続けた。



少しして玄関の扉がパタンと閉まる音がキョーコの耳に届いた。



「…行っちゃった…」

ぽつりと呟くと、キョーコはもそもそとベッドから這い出してシーツを剥いだ。

その足取りに体調の悪さは感じない。

手早くシャワーを浴びて、使ったタオルを入れてシーツ諸とも洗濯機を回す。
普段使っている部屋に掃除機をかけて、雑巾がけをして。
冷蔵庫の中もエタノールをしみこませた布で磨く。
勿論、中身はミネラルウォーターだけだ。使い残した野菜はスティック状に切ってラップをして鞄に詰めた。

シンクを磨き上げて乾拭きを終えた頃、ピーピーと電子音が洗濯ものの乾燥が終わったことを告げた。

時計をふと見れば16時を回っていた。

「よし。あとはアイロンがけとお風呂掃除だけね…急がなきゃ」

手際よくアイロンがけをして、洗濯物をクローゼットにしまう。
ベッドに洗いたてのシーツを掛けて、皺1つ無いベッドメイクを済ませる。
アイロンの余熱が取れる間に浴室の掃除をする。乾拭きもしたが、念のために浴室乾燥を回しておく。

半日かけて磨き上げた部屋を、キョーコはぐるりと見回した。

「うん。ピカピカ!…って悦に入ってる場合じゃないわ。急がないと飛行機に間に合わないわ」

急いで靴を履くと、玄関から室内に向きなおり、大きく深呼吸をした。


「ありがとうございました!!」


部屋に一礼して、キョーコは玄関扉を閉じた。


蓮の部屋を出たキョーコは、小さなキャリーケースをコロコロと転がして最寄りの地下鉄から電車に乗った。
行き先は羽田空港だ。グルメ取材の仕事で、明日の朝までに各自札幌入りする事になっている。
元々は明日の朝一番の飛行機に乗るつもりだったが、丸1日オフだった前日の夜移動に予定を変更していた。

「よし、お仕事とは言え札幌を思う存分満喫よ!」

グルメ取材なんだもの。きっと楽しいお仕事になるはずよ。
桑園の市場からスタートでしょ?朝からウニ丼を食べちゃうんだから。あ、でもやっぱり蟹?
時計台から大通り公園を散歩して、お昼はジンギスカンに味噌ラーメンのハシゴよ!
夜は定山渓の温泉宿で豪華な懐石料理だなんて楽しみでしょうがないわ。『るるぷ札幌』だって買っちゃったもの。

…だから今、るるぷが霞んでウニ丼がよく見えないのは疲れてるからよ。眼精疲労ってやつ?

そう。私に泣く資格なんてない。

「おめでとうございます」って言えない私は地獄に落ちるのが相応しい。

きっと今頃、敦賀さんは最愛の「きょうこちゃん」をその瞳に映しているはず。


だから


私は今夜、敦賀さんから旅立ちます。




続く



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