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   螺旋 3   


都合、少々短めです。


蓮の自宅で夕飯の用意をしながら、キョーコは蓮の様子をちらちらと見守っていた。
部屋着に着替えた蓮は、思いつめた様子で、テーブルの上で組んだ手をじっと見つめている。

何か悩み事だろうか。仕事で何かあったのかと気になり、天ぷらを揚げていた手がおろそかになった。
衣を纏わせて箸でつまんでいた海老が滑り落ちて、適温まで熱されていた油に勢いよくダイブする。

その拍子にキョーコの指に油が跳ねた。

「あつっ!」
「最上さん!?」

キョーコの声に蓮はガタンと音を立てて椅子から立ちあがった。
顔を顰めて左手で右手を握るキョーコの様子に、やけどをした事をすぐに察した。

「火傷だよね?」
「だっ大丈夫です。ちょっと油が跳ねただけです。ホント私ったらドジですよね」
「そんな事より手を見せて」

蓮は足早にキョーコの傍に寄ると、笑って誤魔化そうとするキョーコの焦りなど気にも留めず、コンロの火を止めてキョーコの右手を手に取った。
キョーコの白い右手の甲が少し赤く腫れていた。
とにかく冷やそうと、後ろから腕を掴まれてそのままシンクで水道水をかけられた。

背後から抱きすくめるように腕を回されて、痛くないかと心配そうに耳元で声を掛けられる。

大好きな人が、私の手を握ってくれている。今この瞬間自分だけを見てくれている。自分の名前を呼んでくれている。

そう思うだけで、キョーコの顔が真っ赤に染まる。

…駄目だ。勘違いも甚だしい。敦賀さんは火傷を心配して下さってるだけよ。
誰にでも優しい人だもの。『私が特別』なんじゃない事くらい分かってるでしょ?
それなのに真っ赤になるなんて、敦賀さんが変に思うわ。

「そうだ製氷機に氷が出来てるはず。ちょっと待ってて」
「だっ大丈夫です。びっくりしただけで、そんなにひどい火傷じゃないです」

慌てて振り向くとすぐそこにキョーコを見つめる蓮の秀麗な貌があり、キョーコはハッと小さく息をのんだ。

自分を見つめる蓮の眼差しに、キョーコは釘づけになった。


もしも今、敦賀さんにあと数センチ近づいたりしたら、ちょっとの火傷なんかじゃ済まない。
きっと大火傷をするに決まってる。

でも

私はこの手を振りほきたいの? …振りほどきたくない。
もっと近くに。敦賀さんの心に近寄りたい。

キョーコの枯れ果てていた泉に、いつの間にかまろやかな清水が湧き出していた。
それは絶えずコンコンと湧き出して、遂には泉を満たして出口を求めて溢れそうになるのをキョーコは何とか押し止めていた。

その泉に小石がポチャンと転がり落ちてしまった。そしてその波紋で一気に水が溢れ出して止まってくれないのだ。

「最上さん…」

心の内に困惑するキョーコが蓮の呼ぶ声を聞いた次の瞬間、キョーコの唇は蓮の唇で塞がれていた。


火傷がどうしたというのか。

蓮に自分の名前を呼んでほしいと、蓮に触れて欲しいと。ずっと前から本当は望んでいた事じゃないか。
それを隠して蓮に近づいたのは自分じゃないか。

蓮の力強い腕に腰を抱かれて、キョーコはその瞳を閉じた。

好きです。
ずっとずっと敦賀さんの事だけを見ていました。


**


くしゅんと小さなくしゃみをしたのを機に、キョーコはもそもそとベッドから起き上がり部屋のライトを点けて、ベッド脇に置いてあったキャリーケースに手を掛けた。

明日の仕事で着るものを出しておこうと、キャリーケースから取り出した中身をベッドの上に広げていく。
出てくるのはパジャマにスニーカー、季節遅れの半袖シャツと淡いブルーのスカート。明日着る予定の服とは全く違う。
そもそも1泊のロケに必要なものなど半分も入っていない。

キャリーケースから出てきたほとんどが、蓮の家に置いてあった着替えやちょっとした小物だった。
少しずつ蓮の家に増えてしまったキョーコの私物はその全てを詰め込んできた。お陰で明日本当に必要なものは、キャリーケースの奥の方に押し込まれてしまってなかなか出てこない。

ケースから取り出した白いマグカップを握り締めて、キョーコは動きを止めた。
琺瑯製の温かみのあるそのマグカップの縁は紺色で塗られ、紅いリボンを首に巻いた白い子ヤギが書かれていた。

やっぱり黒ヤギのマグカップも持ってきた方が良かった。
鍋1つ、小物でさえ全てがスタイリッシュで洗練された蓮の家の中で、きっと子ヤギは身の置き場も無く寂しがっているに違いない。

キョーコは棚に置いてきたもう1つのマグカップを思いながら空のマグカップを両手で握り締め、じっと子ヤギを見つめていた。



続く



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