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   黒猫の希い 28   


お猫がやっと敦賀邸に引越しです。


「お邪魔します」
「はい、どうぞ」

今日から一緒に暮らす事になったキョーコを、蓮は自宅へと迎え入れた。

「何かあればすぐに戻って来るんだぞ?」
「大丈夫だよ」
「蓮様がお仕事で戻られない日は、マリアと一緒にお夕飯を食べてくださるわよね?」
「うん。一緒のベッドで眠ろうね」

いつでも戻ってくればいいと、ローリィとマリアはキョーコを蓮の元へと送り出してくれた。
出会った当初はあれ程蓮の傍に居るキョーコに焼きもちを焼いていたマリアも、今ではキョーコの傍に居る蓮の方が邪魔だと言わんばかりにキョーコに纏わりつく。
本当の姉の様に、親友の様に慕ってくれるマリアを、キョーコも心から可愛がっている。そんなマリアと離れて暮らすことに、一抹の寂しさはあった。
それでも、順調に回復したキョーコはローリィの家を出て蓮と一緒に暮らせる喜びで胸がいっぱいだった。

そんなキョーコの様子を、蓮も嬉しそうに見つめていた。

蓮もキョーコと暮らせる日を待ち遠しくしていた。やっとキョーコと一緒に暮らせる。キョーコの笑顔がいつでも蓮の傍にある。
それを思うとつい顔が緩んでしまい、ニヤニヤと笑う社や奏江に指摘されて慌てる事も度々あった。


但しその歓びと一緒に、過去の自分と真正面から対峙しなければならない日も間近に迫っていた。


「リビングの手前、ここがキョーコちゃんの部屋だよ。別にここじゃなくても、気に入った部屋があればそこを好きに使って良いからね」
「うん。…凄いね」
「凄い?…あぁ何も無くて殺風景で驚いた?」

彩りの無い部屋を見渡して蓮は苦笑した。

キョーコが蓮の家に移る事が決まってから数日はあったが、仕事に追われてこれと言った準備も出来なかった。
インテリアコーディネーターが見繕った家具やファブリックが配置されたセンスの良い部屋に、蓮のこだわりは特にない。
使えればそれでよい、機能性さえ備えていれば十分と思っていた。

でもキョーコを招いた今、それを猛烈に後悔していた。

ローリィの家で過ごしたキョーコの部屋の様に、花を飾っておいてあげれば良かった。
ファブリックも可愛らしいコーディネイトに替えておけば良かった。
それよりもっと早く、ローリィの家でキョーコが静養している数か月の間に、シンプルな壁紙だって替える時間はあったのに。

きっと奏江あたりに相談すれば、何だかんだ文句を言いながらも手伝ってくれただろうと思うと、キョーコが快適に過ごせる環境を用意出来ていなかったことを後悔した。

「違うよ。広くって驚いたの。社長さんの家も広かったけど、蓮の家もたくさんの部屋があって。しかも蓮、1人で暮らしてるんでしょ?」
「うん。まぁね」
「これだけ広かったら迷子にならない?」

玄関ってこの扉の先だったよね、と既に不安そうに部屋をキョロキョロと見回している。

「大丈夫。どこに居ても俺が見つけてあげるよ。すぐに行くから困ったら俺を呼んでね」
「うーん…。じゃあ、見つけやすいように鈴でも付けとく?」
キョーコの真剣な様子に蓮は飼い猫じゃないんだから、と眉を下げて困った顔をした。
その様子をくすくす笑いながら、キョーコは蓮に向き合う。

「えと、改めまして今日からお世話になります!」
「はい。こちらこそ」



カイン・ヒールを演じる事を決めてから、蓮の眠りは浅い。浅い上に夢見が悪かった。

夢は決して夢ではなく、現実にあった自分の過去だった。
無感情に人を殴る場面の時や、思う演技が出来無い自分に、助監督から嗤いながらクビを言い渡された場面
そして親友だったリックが宙を漂いアスファルトに叩きつけられる瞬間

悪夢のような過去が悪夢となって容赦なく蓮に襲い掛かってくる。そんな夢を繰り返し見るのは辛く、睡眠時間はぐっと減っていた。

そして今夜も同じ悪夢に襲われていた蓮の意識が、人の気配に急浮上した。

「ん… !? キョーコちゃん?」

ハッと目を開けて体を起こそうとすると、パジャマ姿のキョーコがごそごそとベッドの中へ、蓮の隣へと潜り込んできた。

蓮は突然の出来事に体を硬直させて、事の成り行きをただ見つめていた。
キョーコはピタリと蓮に添い、あったかい、と笑った。

「キョーコちゃんどうしたの。まさか寝ぼけた?」
「違うよ、寝ぼけてなんか無いよ。蓮が苦しそうに呻ってたから怖い夢を食べに来たの」
「夢を食べに?」

君は獏か。

キョーコは喉が渇いて目が醒めた。キッチンで喉を潤した後、フラフラと自分の部屋に戻ろうとした途中で、蓮の部屋から苦しそうな呻き声が聞こえて心配になり、忍び足で蓮の傍にやって来たと言う。

「もう大丈夫だよ。蓮が泣いちゃうくらい怖い夢は私が追い払ってあげるから安心してね」
「安心って…。キョーコちゃんはもう少し危機感を持った方が良いと思うよ?」

真夜中に男のベッドの中に潜り込むなんて、普通どう考えたって襲ってくださいと言っているようなものじゃないか。
相手が俺じゃなかったら…いや、俺だから…キョーコちゃんにとって特別な存在だから、キョーコちゃんは安心して傍に居てくれるのか。
でもこれは男として見られていないって事じゃないのか?
喜んで良いのか哀しむべきか。何だか複雑な心境だな。

「蓮、眉間に皺が寄ってるよ」

そう言うとキョーコは肘枕をして、空いた方の指で皺を伸ばした。
そして差し出した腕はベッドの中に入ることなく、蓮の髪をさわさわと撫でる。

温かい…。

いつもは気持ちよさそうに目を細める顔を見たくてキョーコちゃんの髪を撫でてるのに、今日は立場が逆転だ。
まるでキョーコちゃんに心の澱を拭われていくようだ。
…撫でてもらえるって良いもんだな。

強張りが少しずつ解れて行くのを感じ、蓮は目を閉じて大きく息を吐いた。

「私が蓮を怖い夢から護ってあげる。だから安心して眠っていいよ」
「うん…ありがとう。キョーコちゃん」
「お休み、蓮。いい夢を」

柔らかな眠りに誘われる。

キョーコから与えられる温もりに、蓮は暗闇に意識を手放した。


もう、夢は見なかった。


朝、目覚めると蓮の隣にキョーコの姿は無かった。

それでも深く眠れたのだろう。頭はスッキリしているし、体も軽く感じる。
繰り返し見た悪夢はキョーコの添い寝のお陰か、もう現れることなく熟睡出来たようだ。


寝室のドアを開けると、ダイニングルームに食欲をそそる食べ物のいい匂いが漂っていた。
キョーコが朝ご飯を準備してくれているのだろう。テーブルを拭いているキョーコの後ろ姿を蓮はじっと見つめた。

昨日まで無機質だと思っていた空間が、まるで別の部屋のように暖かく、ほんわりと明るく色づいた気がした。
キョーコがいるだけで、こんなにも世界が鮮やかに見えるのだ。

いつの間にかキョーコを見つめる蓮の顔には笑顔が浮かんでいた。


蓮の気配に気づいたのかキョーコは振り返り、キラキラと輝く満面の笑みを見せた。

「おはよう蓮。良く寝られた?」
「おはよう。キョーコちゃんのお陰でよく眠れたよ。ありがとう」

キョーコに歩み寄ると覆いかぶさるように腰を屈めて、蓮はキョーコの唇に自分の唇を重ねた。
そしてゆっくりとキョーコから離れた。

「シャワーを浴びて来るよ」
「うっうん…」


キョーコはバスルームへと向かう蓮の後ろ姿を呆然と見送った。



続く



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