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   黒猫の希い 29   


最近、別嬪黒猫さん(推定野良)を見かけません。
どこかお嫁に行ったのでしょうか…。


「じゃあ行ってくるね。誰も来ない筈だけど、もしチャイムが鳴ってもドアを開けちゃ駄目だよ?」
「うん。分かってるよ」

蓮の部屋へは専用エレベーターでしか辿りつけない。そのエレベーターの手前には24時間コンシェルジュが待機していて、蓮の部屋を訪れようとする不審者を阻んでくれる。
そんなセキュリティ万全なマンションでも、キョーコを1人残していくのが蓮は心配でならない。
買い物ならマンションの地下にあるスーパーへ、戻る時もエレベーターには誰も一緒に乗せては駄目だとか、何か困った事があったらすぐ電話をするようにと、思いつくまま真剣な顔でキョーコに言い含める。

自分はそんなにも頼りないのかと、キョーコはため息を噛み殺して蓮を見上げる。

「そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫。ちゃんとお留守番してるよ。蓮もお仕事頑張ってね」
「うん…じゃあ、なるべく早く帰るから」

困ったように笑うキョーコに、蓮はそっと顔を寄せてキスを落とした。

「んっ!またした!!」
「じゃ、行って来るね」

驚いて両手で唇を覆ったキョーコに、蓮はクスクスと笑いながら手を振ると、エレベーターの中へと消えて行った。
その笑顔は、愛しくて堪らないものを見つめる表情を湛えていた。

蓮が消えても暫くの間呆然としていたキョーコは、玄関ドアを閉じてフラフラとリビングに戻るとペタンとラグに座り、そのまま倒れ込んだ。


「ふにょーーーーーーーーーー!」


奇声を上げながらコロコロと転げ回り、ピタリと動きを止めた。

蓮の唇って弾力があって、しっとりしてて。意外と柔らかいんだ…。

「って!」

「ムキャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

真っ赤に顔を染めて、先程より回転速度を上げて右へ左へとゴロゴロと転げる。

ゴンッ

勢いづいたキョーコはテーブルの脚に額をぶつけてようやく回転を停止させた。打ち付けた額を抱えて悶絶する。

「あぅぅ。痛い。…おでこ打った」

どうして?どうして蓮は私にちゅうするの?唇のちゅうなんて、本当に好きな人としかしないんじゃないの?

蓮は私の事好きなの?

私は蓮の事をどう思ってるの?

蓮はキョーコを誰よりも大事にしてくれている。キョーコが不安にならないよう、優しく包み込んでくれている。
仕事で忙しいにもかかわらず、時間を作って自分に会いに来てくれる。
それをキョーコは分かっていたし、申し訳ないと思う以上に蓮に会える事が嬉しくてたまらなかった。それを正直に伝えると、蓮も嬉しそうにキョーコを抱き寄せてくれた。

蓮に抱きしめられると、とても幸せな、優しい気持ちになる。蓮の隣に居られることを感謝したい気持ちになる。

朝、突然蓮にキスされた時は、ただ驚いただけでそれ以上の事は考えられなかった。脳の活動が一時停止したくらいだ。
しかし蓮は何事も無かったかのようにバスルームへと消えて行ったし、その後一緒に朝食を食べた時もいつもと変わらない様子だった。

キスされた事も、自分の思い違いだったのではないかとさえ思い始めていたと言うのに。

出かけ際にもう一度不意打ちのようにキスをされた。

そのキスが、キョーコは嫌ではなかった。寧ろその前にされたキスと同じようで、やっぱり思い違いでも夢でもなかったのだと思うと、嬉しく、そして気恥ずかしくてどうしようもなかった。
自分で自分をコントロール出来ずに、コロコロと床を高速回転してしまう始末だ。

もっと蓮に触れたい。蓮の特別になりたい。

ムクムクと急速に育ち始めた蓮への想いに、キョーコはビクリと体を固くした。


キョーコの正体を蓮が知ったら、蓮は一体どうするのだろう。


ぎゅっと縮込めていた躰から力を抜くと、だらりと四肢を投げ出して、キョーコは天上を見上げた。

キョーコがかつて迎えに行った人間たちの様に、恐怖や蔑みの籠った、うすら寒い視線を投げつけられるのだろうか。
いや、優しい蓮の事だから憐憫の情を漂わせるのかもしれない。
それでも、今のような優しいものではない筈だ。
本当の自分を好きになってくれる人なんかいる訳がない。

つい今まで膨らんでいた気持ちが急速に萎んだ気がした。

「…よし。朝食のお片付けしなくちゃ」

ムクリと上半身を持ち上げると、額を打ち付けたテーブルの上にあった紙袋が目に入った。

「あ…やっちゃった…」

それは蓮と社の為にキョーコが用意した昼食だった。

昼食は移動時間に重なるから、きっとまたコンビニでおにぎりか何かを調達する事になると、何気ない会話の中で蓮が零した。
それなら何か手早く食べられるものを用意してあげようと、キョーコは悪夢から解き放たれてぐっすりと眠る蓮のベッドから抜け出して、夕飯の材料を蓮と一緒に選んだ24時間営業しているマンション地下のスーパーへと向かい食材を調達した。
まだ早朝ともいえない時間のスーパーにお客はほとんどいない。キョーコはゆっくりと店内を回って、自分が作った昼食を食べる蓮を想像しながら食材を選んだ。

購入したのは、ふかふかの美味しそうなパン・ド・ミと香ばしそうな焼き色のついたバケット。
パン・ド・ミのサンドイッチには、照り焼きにしたチキンと卵のサンドイッチとフルーツ缶とクリームチーズを和えたフルーツサンドを作った。
バケットにはドライトマトと生ハムをオリーブオイルで和え、それとレタスを一緒にサンドした。

今から慌てて蓮を追いかけても、既にマンションの駐車場を出ているだろう。
無かった事にしてしまおうか。でも、お昼にキョーコ1人でこのサンドイッチを食べきれるとは到底思えない。
それにコンビニのおにぎりを食べるよりは、キョーコが用意したサンドイッチの方が栄養バランスもいいのではないか。

折角作ったのだからドラマの撮影をしていると聞いたテレビ局に届けよう。社に連絡をしておけば、受付にでも取に来てくれることだろう。
…でも、できる事なら蓮に直接渡したい。


蓮の傍に居られる間は、少しでも蓮の為になる事ををしよう、してあげたい。
蓮がいつでも自分に笑いかけてくれるように。


そう思うと、萎んだ心がほんのりと色づき、そしてぷくりと少しだけ膨らんだ気がした。



続く




ナーはパン屋に行くと必ずバケットを買います。
噛むほどに旨いと思うのですよ。
生ハムとドライトマトのサンドを食べた時は衝撃でした。



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