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   幸せなら態度で示そうよ 5   


モガミ語万歳。
そんな話です。


「世界を見たいか」

祖父の言葉に、キョーコは一も二もなく飛びついた。

モガミ国再訪を目指して航行していた冒険家・マルコを乗せた船は、案の定モガミ国に辿りつく前に神風の猛威に晒され敢え無く座礁、沈没してしまった。
沈没する時に海へと投げ出された樽や、座礁して砕け散った元は船の一部だった木材に縋りついた乗組員たちは、徐々に少なくなる仲間を励まし合い2日間海を漂流した。
そしてマルコがもう駄目だと諦めかけたその時、再度モガミ国の漁師によって助けられた。

手厚い看護を受けて回復した生存者たちをヒズリ王国へと送り届けるために、キョーコの祖父は当時進水式を済ませたばかりのモガミ国初の鋼鉄船をヒズリ王国へ派遣する事を決めた。
その使節団の長として、当時15歳のキョーコを任命した。

キョーコは幼い頃から、何不自由ない籠の中にある小さな窓に顔を寄せて、暇さえあれば外を眺めていた。

窓のすぐ外には見事な庭園が広がり、四季折々の美しい花と緑が目に入る。その奥には鯉が泳ぐ大きな池と築山。
そしてその先は無く、高い壁に阻まれていた。

あの先に何があるのだろうか。どんな景色が広がっているのだろうか。願いがかなうなら、その先を見たいとずっと思っていたキョーコに祖父の一言に飛びつかない理由など無かった。

無事船は出航し、モガミ国の姿が徐々に小さくなる。
キョーコはその事に感傷的になるよりも、目の前に広がる大海原に目をキラキラと輝かせ、まだ見えぬヒズリ王国のある大陸に胸を熱くしていた。

船上での生活も、キョーコは毎日が楽しかった。
地平線まで広がる大海原は、どれだけ見ていても飽きなかった。
漁船と間違えて魚のご相伴に預かろうと寄ってくるかもめに笑った。暇を持て余した乗組員たちと甲板から釣り糸を垂らして魚釣りにも興じた。
月夜は淡い光が海原当たり一面に広がり、キラキラ輝く様子はまるで宝石箱のようだった。
星の無い真っ暗闇に聞こえる波の音は、どこか優しい子守唄のように感じた。

キョーコは深窓の姫君として船室に籠っている気持ちなど、最初から微塵もなかった。
食糧補給の為に寄航する港ごとに、キョーコは側近たちを拝み倒して船を下りる。
活気あふれる港町の喧騒に驚き、初めて目にする食材や工芸品に目を丸くした。
屋台のいい匂いに釣られて串焼きになった肉を頬張ったり、平たく焼かれたアツアツのパンも食べた。

下船して港の散策を何度か重ねた頃、キョーコはそこに暮らす人たちが何を話しているか分からないと言う事に気付いた。

マルコたちヒズリ王国の人たちは看護を受けていた数か月の間にモガミ国の言葉をマスターしていた。
航海の経験など無いモガミ国の乗組員への指示、指導はヒズリ王国の者がモガミ国の言葉で行っていたし、マルコたちもキョーコにモガミ国の言葉で接していた。
そのせいでキョーコが自分の話す言語以外に言語がある事に気が付かなかったのだ。

その土地に暮らす人たちと会話が出来れば、港での散策ももっと楽しく有意義なものになるのではないか。
目的地のヒズリ王国で国王陛下に謁見する時にも、マルコたちに通訳を頼まずに直接会話が出来た方が良いに決まっている。
それに共通言語で書かれた本が読めるようになれば、もっと沢山のことを学べるではないか。
どうせ船の上で出来る事もさせてもらえる事も限られているのだから、時間は腐るほどあるのだ。

「マルコさん!」
「あぁ、キョーコ様、お帰りなさいませ。散策は楽しかったですか?」

マルコは港の散策から帰ったキョーコに笑顔で語りかけた。

「はい。マルコさん、お願いがあるのです」
「キョーコ様のお願いなら、何だって叶えて差し上げます!」

キョーコは、大陸の共通語を学びたいのだと意気揚々とマルコに伝えた。
その途端マルコの顔からは笑みが消え、この世の終わりだとでも言うようにフルフルと首を横に振る。

「姫にそんなものは必要ございません。ヒズリ語を覚えるなんて絶対に駄目です。それだけはご容赦くださいませ」

どうして駄目なのかと聞いても、絶対にダメだと、お願いだからそんな事はしないで欲しいマルコは懇願した。
マルコ以外のヒズリ王国の人にお願いしても、みんな一様にそれを断った。

「姫は…いえ。モガミ国の皆様はそのままでよろしいのです」

そう言ってどこか生暖かい微笑みを返すだけで、理由は誰も教えてくれなかった。
それはマルコをはじめヒズリ王国の誰もが、モガミ国語の魅力に取りつかれていたからだった。

一体誰が『にぱっ』を挨拶のことばだと思うだろうか。『むーん』を難色を示し、打開策を練るべきだいう進言だと思うだろうか。
しかもモガミ国語を話すキョーコの存在は何より可愛い。船上生活の心のオアシスを奪われてなるものかと、ヒズリ王国の乗組員たちは一致団結し、キョーコに他の言語を教える事を断り続けた。

しかしそれで諦めるキョーコでは無かった。
キョーコはマルコたちヒズリ王国の人同士の会話を、注意深く観察することで会話の内容を推測し、意味する単語を少しずつ覚えていった。

そしてヒズリ王国の謁見の間で王妃に優しく手を取られて立ち上がったキョーコは、王妃を見つめてその成果をいかんなく発揮した。


「はじめましゅれ。キョーコ、ともうしましゅ。おーひへかたまにはごきげんうにゅっっっっ!?」

ヒズリ語で用意していた挨拶は、ジュリエラ王妃の抱擁の前に途切れた。
元々人種の違いのせいでモガミ国の成人身長はヒズリ王国のそれより20センチは低い。その上、ジュリエラ王妃は10センチのヒールがある靴を履いていたためその差は更に広がる。
キョーコは顔をジュリエラ王妃の胸に埋めて、ギュウギュウに抱きしめられていた。

「んごごごごっ!!」
「ジュリ!」

突然の出来事にキョーコは両手をバタつかせるが、ジュリエラはそんな抵抗などもろともせず歓喜に震えながらギュウギュウに抱きしめ続ける。
その姿に国王や周りが慌てて王妃に声を掛けるが、耳に入る様子は無かった。王妃の脳内は既にお花畑だった。

「王妃!ご使者を離しなされっ!!」
「嫌っ!絶対に嫌よ!!こんなにも可愛らしいご挨拶をしてくれる妖精を愛でて何が悪いの!?何てキュートなのかしら!!」
「ご使者が苦しがってるではないか!!」

キョーコは顔をジュリエラの胸に埋めたまま、腕をジュリエラの背中に回して、パシパシと叩く。

「あぁ、こんな可愛い娘が欲しかった…どうして私の子は息子だけなのかしら」
「ふぬーーー …」
「ジュリ、姫の腕がだらりと下がったぞ!?早くキョーコ姫を離しなさい!!」
「そうだわ!息子…レンとキョーコ姫が結婚すればいいのよ!!」」

良い事を思いついたと嬉しそうにキョーコをしっかりと抱き締めたまま、ジュリエラは体を左右に振る。

「ジュリ!!キョーコ姫が窒息死してしまう!そんな事をしたら国際問題に発展するだろう!!」
「レンとの結婚を許してくれない限り離さないわーーーーーっ!!」


おじい様……辿り着いた世界の中心は美女のお胸でございました……


霞んで行く意識の中で、キョーコは思った。


**


「ね?だからクオン、キョーコ姫と結婚なさい。はい、あーん」
「母上、俺の結婚話の元凶はやっぱり貴女でしたか…」
「はむはむ。」
「だって姫はこんなに可愛らしいのよ?それに今あなたも姫の笑顔にハートを打ち抜かれたでしょ?一目で恋に落ちたでしょ?
はい、あーん」
「うっ…ですがモガミ国の狙いが分かっていません。父上、モガミ国の国主からの親書には何と書かれていたのですか」
「あはん!」
「おや、姫はチーズが気に入ったようだね。私のチーズも食べなさい。あーん」
「父上…父上まで何をしているんですか」

ジュリエラはキョーコにサーブされた朝食をナイフとフォークで切り分けると、それをキョーコの口元へとせっせと運び、キョーコも嬉しそうにそれを頬張っている。
羨ましくなったのか、国王であるクーも自らの皿にあったチーズをフォークに差すと、身を乗り出してキョーコへと差し出している。
まるで親鳥が雛に甲斐甲斐しく餌を与えているようで、食卓を見守る侍女たちも微笑んでいる。

「姫の国は食事にカトラリーは使わずに『オハシ』を使うそうなの。でも船に置いてきてしまったそうなのよ」

だからまだあまり上手にカトラリーを使えない姫の為に食事を食べさせてあげるのだと、嬉しそうにジュリエラは言う。
それならキョーコの国のカトラリーを届けさせればよいではないか。無理だというなら、フォークだけで食事ができるように厨房で予めカットしてから皿に盛ればいいだけだろう。
そうしないのは、国王夫妻がキョーコを構い倒したいだけではないか。レンはガクリと項垂れた。

「むむ?」

レンがそっと顔を上げると、キョーコが心配そうに眉を顰めてレンを見つめていた。
項垂れたレンを、体調が悪いのかと心配しているように見えた。
体調が悪いわけでは無い。ただ両親の様子に少し頭痛がするだけだ。レンはクスリと笑いながら姫に語りかけた。

「姫、美味しいですか?」
「おいちー」
「~~~~~っ!!」


両手を頬に添えてにっこりと微笑むキョーコに、レンは固まり、国王夫妻は身悶えしていた。

「…姫、私のチーズも食べませんか?」

無表情のままレンはフォークに刺したチーズをキョーコの口元へと運ぶと、キョーコはぱぁっと目を輝かせて躊躇う事無くぱくりと食べた。




つづく。



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