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   メランコリー   


どうしたんでしょう、自分。
気鬱でゴメンナサイ。


この人も、いつか私を置いて離れていくのかな…

カーテンから漏れ入る僅かな月明かりに照らされた隣で眠る恋人の寝顔を、キョーコは頬杖をついてじっと見つめていた。

「綺麗…」

穏やかに閉じている瞼の下には、キョーコを優しく見守る神秘色の瞳、キョーコの肌を擽る通った鼻、キョーコの髪に寄せる温かい頬、キョーコだけに甘くて熱い口づけを贈る唇。

ほうっと吐息を漏らし、キョーコはそっと蓮の柔らかな髪を撫でた。


今は烏の濡れ羽色のようなこの髪も、もういつでも輝く黄金色をに変えてしまえるのに。
こんなにも綺麗で魅力も溢れていて、その上努力に裏打ちされた才能を輝かせる人が、どんな奇跡で自分の隣に居てくれるのだろう。

神の寵児に愛されるなんて…僥倖ってこのことなんだろうな。

キョーコは目を伏せて、自嘲するように小さく笑った。

きっと自分はこの先にある一生分、全ての幸運を使っているのだろう。そして使い切った処が「その日」なのだ。
その日…蓮は本来在るべき場所へと、眩い光と喝采の中帰って行くのだろう。光の洪水のような眩しさに、私が目を瞑っている間に。

キョーコを置いて、決して振り返らず、前だけを向いて。

蓮の出自を、今までの生い立ちを聞いた日から覚悟していた事なのに、キョーコは「その日」が来るのが恐くて仕方が無い。

体が震えて竦んでしまう。
叫びたいのに喉が引き攣り声も出せない。


『置いて行かないで!』


そんなことを言える何かが自分にあるとでも言うのだろうか?
情けない事に、どう考えても何一つ、一切浮かばない。
何でもいいから蓮の傍に自分が居てもいい、居ても許されるものがあればいいのにと、キョーコは蓮の寝顔を見つめたまま顔を歪ませる。

でも、そんな事を言ったら駄目なの。優しい人だもの。困らせるだけだわ。
困らせたところで結果は一緒。後ろは振り返らない。…振り返るべきではないわ。

実の親にさえ愛されなかった子が、僅かな間だけでも神の寵児に愛さただけでも奇跡なのよ。


『置いて行かないで!』


子供の頃、キョーコは何度その言葉を涙で歪んで見える母親の背中に叫んだだろう。
何度も何度も繰り返し追い縋り、腕を伸ばして母親の掌を掴みかけて。

願いが叶う事は1度も無かった。

縋りつこうとした腕を振り払われる…あの絶望をまた味わうのだけはまっぴら御免よ。
それも、よりによってこの人に振り払われるだなんて、冗談じゃないわ。


  ___ 私の心が死んでしまう ___


髪を辿った震える指をその先に滑らせて、そっと蓮の首にかける。


今、ここでこのまま私だけのものにしてしまおうか


ふふ。

出来るわけがないじゃない。

こんな歪んだ想いは、深く深く沈めてしまおう。
そら寒い想いなんて、私に残された幸運の熾火まで一気に吹き消すだけよ。

『失望した』

そう言われないように。
今ある『奇跡』がもう少しの間…蜘蛛の糸のように細くてもいいから未来に繋がるように。

この人の瞼が開く頃には、この人の瞳には明るく笑う私だけが映るように、歪んだ独占欲は深く深く閉ざしてしまおう。


首に回した手をそっと降ろそうとした時、キョーコの細い手首を大きな節立った手がそっと掴んだ。


閉じていた瞼をゆっくりと開き、蓮はじっとキョーコを見つめた。
その視線からキョーコは目を反らす。
動揺と不安をひた隠して、キョーコは慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべた。

「ごめんなさい。起こしちゃいましたね…まだ夜明け前です。休んでください」
「キョーコ…君にならこの命、いつ奪われてもいいよ」

ビクリと震えて血の気が引いて行く指に、蓮は自分の体温を分け与えるように指を絡める。

「この命も体も心も全部キョーコに捧げてる。だから好きにしていい」


絡めた細く白い指に蓮はそっと唇で触れ、もう一方の腕で硬直したキョーコの躰を抱き寄せる。


「でもね、君をこうやって抱き締めたりキス出来なくなるのは嫌だから、なるべく長く生きたいな」

蓮は微笑みながらキョーコを見つめる。

「生きている間は、君から離れるつもりも離すつもりもないから。もしも俺から離れたくなったら、キョーコ、俺を殺して?」

キョーコは静かに泣き出した。嗚咽を我慢して、ただ涙をほろほろと溢れさせる。

「キョーコ、何が不安?どんな些細な事でも何でもいい。俺を頼ってよ。キョーコを不安にさせる全てのものから俺が守るから」
「っ…敦賀さん…」

キョーコの涙を蓮は優しく唇で拭っていく。

「もしも俺の事でキョーコが不安に思うことがあるなら…その不安を吹き消すように、ありったけの愛を込めて君にキスを贈るよ。
何百、何万、何億回でも。君が笑顔になるまで…いや、ずっと笑顔であり続けられるように、一生贈り続けるよ」

だから、どうか泣かないで。君は俺の太陽なんだから。君が泣いてしまったら、昼も夜も来ないよ。

「敦賀さん……置いて行かないで……こんな弱い私を…嫌いにならないでっ…」

縋るように見つめるキョーコの両目を覗き込んで、蓮は大丈夫、と優しく笑って見せた。

「置いて行くわけが無いだろう?君がどんなに嫌がっても。例え背負ってでも連れて行くよ」

よしよし、と子供をあやす様に。
まるで幼いキョーコが、母に手を振り払われて一歩も動けなくなってしまった心の奥底へと、両手を広げ、背中を抱きしめて救い出すかの様に。

蓮はキョーコを両手で抱きしめた。


「さぁ、夜明けまでまだ時間があるんだろう?ずっと抱きしめているから、ゆっくりとお休み。大丈夫。恐い事なんて何一つない」


コクンと頷いて、キョーコは瞳を閉じてそっと蓮の胸に顔を寄せた。


キョーコ。君の隣が俺の安らげる唯一の場所であるように、俺の隣が君にとって安らげる唯一の場所であるように。




Fin.




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