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   幸せなら態度で示そうよ 7   


体調が戻りません。月曜日に無理したせいで火曜日は寝込む羽目に。とほほー。
皆様も体調にはお気を付け下さいませ。




扉の前で上半身を捻り、両頬に手をあてている<ムンクの叫び>を目に留めると、レンは口元に拳をあててコホンと1つ咳払いをした。
ヤシロの顔色に今浮かべている自分の表情に思い至り、レンは上がってしまう口元を無理やり引き結び、眉間に力を入れた。

「ヤシロさん、何とも形容しがたい顔は止めてください。それより姫をこちらへ」
「…どうぞ、お入りください」

声を掛けると、キョーコは後ろを振り返り廊下をキョロキョロと見回していた。
その姿を不審に思いながらも、主であるレンが入出を許可した手前、無下にも出来ず渋々レンの執務室へと招き入れた。

「ヤシロさん、こちらがモガミ国のキョーコ姫です」

レンが紹介した少女をよく見れば、手入れの行き届いた長い黒髪を一つに纏め、モガミ国の衣装であるピンク色の打掛を纏っていた。
その打掛にはモガミ国を象徴する満開の染井吉野が一面に咲き誇っている。鮮やかに色付けされた絹が織り込まれたその逸品に、ヤシロは思わず見とれてるが、打掛の下の着物が少し乱れている様子が見て取れた。
そう言えばキョーコの息が弾んでいた。きっと城内を走っているうちに着崩れてしまったのだろう。きっとこの姫はお転婆なのだろう。そう思うと、警戒心の緩みと共にヤシロの口元が少し緩んだ。

ヤシロは膝を付いて右手を左胸に置くと、そのまま頭を下げた。

「お初にお目にかかります。キョーコ姫、私は王太子殿下の側近を務めますヤシロと申します。以後お見知りおき下さいませ」
「…む?」

ヤシロの臣下としての礼に、キョーコはどう対応したらよいか分からず、助けを求めるように眉を下げてレンを見つめた。
その姿にくすりと笑ったレンの様子に安心したのか、キョーコはレンの元へと近寄って行く。

「ヤシロさん、キョーコ姫はヒズリ語に明るくはないのです。私から社さんを紹介しますね」
「は、はぁ…お願いいたします」

ヤシロは立ち上がると、レンの傍でヤシロをまっすぐに見つめるキョーコに苦笑した。

なる程、片膝をついて礼を取られたことが無いのか。モガミ国の家臣は主にどのような礼を取っているのだろうか。礼節を重んじていると言うモガミ国の事だ。きっと姫の滞在中に目にすることになるだろう。
そんな事を考えているうちに、レンがヤシロを紹介した。

「姫、コレはヤシロさんです」
「…やしろさんたま?」
「姫、ヤシロさんに『たま』は不要です。たまナシです」
「!!ひどっ!!」

そもそもヤシロは臣下なのだから『さん』や『様』といった敬称など不要なのだ。レンも『ヤシロ』と呼ぶべきだと主張しても、レンはヤシロの事は兄のような存在なのだし、今更呼び方を変える気も無いと笑っている。
飄々と受け流されて埒が明かない。

そんなやり取りをしている中、ふとヤシロがキョーコを見れば、レンの執務机の上をじっと不思議そうにじっと見つめている。
何を見ているのかとキョーコの視線を追ったその先には、先程ヤシロがレンに渡した視察の報告書が執務机の上にあった。
その瞬間、国の穀倉地帯の情報が概算とは言え他国の人間に漏えいした事に、ヒュッと血の気が引く音が聞こえた。

しかしキョーコはその報告書をじっと見つめたまま、首を左右に傾けているだけだ。機密情報に触れたという思いなど、その表情からは見てとる事はでいない。
あぁ、とヤシロは思い当る。そもそもキョーコはヒズリ語を理解していないのだ。その文書がどれほど価値のある物かも分からず、ただじっと見つめているだけなのだ。

そう思い、ほっと安堵のため息をついた時だった。それまで言葉を発しなかったキョーコが、呪文を唱えた。


「ちゃうちゃうちゃうんちゃう?ね?」


ね、と首をこてんと傾げる姿は実に愛らしい。呪文にかかったレンとヤシロは硬直した。
そんな2人にお構いなしに、書類の一点に指を差して、もう一度キョーコは呪文を唱えた。

「ね?ちゃうちゃうちゃうねん。ちゃうちゃうやねん」

2度目の呪文に2人の硬直が解けた。

「殿下。姫は何と仰ってるんです?と言いますか、これがモガミ語ですか」
「…うん。多分モガミ語だと思うよ。私もモガミ語は分からないから、姫が言いたい事は全く分からないよ」
「まぁ、そうですよね」

キョーコが一生懸命に何かを伝えようとしている事は分かる。だが何を言っているのか皆目見当がつかない。
全く分からないが、何かを必死に伝えようとしている事だけは分かる。
どう対応したら良いのかと困惑する2人の様子に不安になったのだろう。キョーコが『むー』と寂しそうに一声発した後、はっと何かを思いついたように目を輝かせた。

自分の懐に手を差し入れてごそごそと探る様子に、男二人が顔を真っ赤にして目を伏せているうちにキョーコは矢立を取り出した。
レンとヤシロが初めて見る矢立は、キョーコの手のひらより小さい漆の箱に、金の蒔絵で梅の花があしらわれていた。そこから取り出した小さな筆に、レン達はそれが携帯用の筆箱だという事を知った。

「ふふーん♪」

レン達がキョーコの鼻歌に呆気にとられているうちに筆に墨を含ませると、キョーコは卓上の紙、先程キョーコが指を差した部分に迷いなく一直線に筆を走らせた。

「フゴーーッ!!なんばすっとかーーーーーっ!」

キョーコの突然の行動にヤシロは再びムンクになった。

文官たちが昨日は殆ど徹夜で作業にあたったに違いない報告書に、異国の姫が笑いながら落書きをしたのだ。
やっぱりモガミ国は喧嘩を売りに来たのだ。自分たちの努力を笑いながら一瞬で無にするような悪魔なのだ!
ゴーホーム!!

そんなヤシロの雄叫びなど気にも留めない様子でキョーコは紙を裏返し、そこに何やら西洋数字を書き込むと、紙をつまんでレンとヤシロににっこりと笑いかけた。

「ね?」

ただの紙となってしまった報告書をレンは受け取ると、墨で消された個所と、キョーコが書いた裏側の数字を見比べた後、はっと弾かれたようにキョーコを見つめた。

「姫、姫はほんの一瞬で誤りに気付いて、その上正しい値が分かったのですか」
「む?」
「ほら、ヤシロさん。姫が墨を入れた部分、穀物の予想収穫高と投機資金の流入予測値に誤りがありますよ」
「なんですって!?」

驚愕の表情でレンから奪うように報告書を手に取ると、ヤシロは食い入るように麦やとうもろこしの値、投機マネーの基礎値に目を走らせ、そして顔を曇らせた。

「本当だ。確かに投機額が高すぎる。…計算ミスです。そして姫が示してくださった値が今この場で正しいものかは……申し訳ございません。すぐに再計算いたします」


キョーコの仕打ちに、まるで鬼や悪魔のようだと心の中で罵った事を、ヤシロは深く後悔した。
『ちゃうちゃう』も、きっとこの計算が間違っている事を気づき、教えようとしてくれたのだ。そしてオロオロとするレンとヤシロを見てモガミ語が理解できない事に気付いたキョーコが、それならばと修正すべき個所と値を教えてくれたのだ。

きっと書類に目を通した一瞬で、理解できるヒズリ語だけを拾い出し、そして頭の中だけで計算をしてそこに書かれた数値の誤りに気付いたのだ。

驚いた表情を浮かべているレンとヤシロを前に、キョーコは部屋を訪れた時と変わらない笑顔を湛えていた。

ただ最初はキョーコの表情や仕草の可愛らしさに心が奪われた。でもそれだけではなく、高い知性や教養を備えた立派な女性なのだ。
もっとキョーコの事が知りたい。そして自分の事も知って欲しいとレンはそう思った。
活気あふれる街や豊かな森にキョーコを連れて行ってあげたい。それを見ればきっとキョーコもヒズリ王国の事が好きになってくれるのではないか。このまま国に還らず、生涯ヒズリ王国に居ても良いと心から思ってもらえるのではないか。

そんな事を心の中で巡らせていた時、嵐がやって来た。

バタァン!!

「はっ母上!?」
「ひぃっ」

勢いよく開かれた扉の外には、神々しい笑顔を湛えた王妃が仁王立ちしていた。そして呆然と見つめるレンの傍に居たキョーコにロックオンすると駆け寄り、文字通り踊りかかった。

「キョーコ姫ーっ!見ぃつけた~~~~~~~~~!!」
「むきゃーーーっ!!」
「問答無用!!」

そう言うとレン達が呆然と見守る中、ジュリエラはキョーコが着ていた打掛を剥ぎ取り、解けかかっていた帯を解くとその一端を勢いよく引っ張った。

「あ~~~れ~~~~~~~!!」

執務室に敷かれたカーペットの上をキョーコは絶叫と共に勢いよくコロコロと転がった。
その出来事はレンが止める暇も無かった。

「母上!!姫に何て事をしてるんです!!ほら見てください、姫が目を回して延びちゃってるじゃないですか。姫、しっかりして下さい!!」

慌ててレンがキョーコの頬をペチペチと叩いても、キョーコは気が付く様子はない。
ジュリエラがこの部屋に着た瞬間、キョーコは怯えた素振りをした。きっとこの部屋にもジュリエラに追われて辿りついたに違いない。

「もう!キョーコ姫ったら照れ屋さんなんだもの。折角今夜の舞踏会の準備をしよう一緒にお風呂に入ろうとしたのよ?そうしたら逃げ出すんですもの。やっと見つけたわ~。さぁ、一緒にお風呂でお肌を磨きましょうね!!フフッ。レンも楽しみにしてなさいな。さぁ、姫を湯殿に運んでちょうだい」
「はっ」

ジュリエラ付きの護衛騎士が指示通りキョーコを運ぼうと傍に寄るのを、レンはキラキラと輝く笑顔で静止した。

「私が姫を運びましょう。湯殿でしたね」


そんなレンの様子をヤシロは驚愕の表情で、ジュリエラは含み笑いをしながら見つめた。



つづく。



Comment
笑いました。
今晩は。いつも楽しく拝見させていただいております。
その後体調は大丈夫ですか?
言葉の使い方がとても面白いですね。
特に「たまナシ」が社さんには申し訳ないですが
吹き出して笑ってしまいました。
更新が楽しみです。
季節柄ご自愛ください。
ありがとうございました。
Re: 笑いました。
みえぶた様

楽しんでいただけて何よりです!
むふふ。たまナシに吹いていただけましたか。
昼間寝すぎたせいで、夜へんなテンションで書いてしまったので少し反省してます!(ほんとに。)
でも喜んでいただけたなら何よりです~。
キョーコ姫の変なモガミ語も当初は設定があったのに、今やおかしな方向に…。

お見舞いありがとうございます。体調は復活しました!
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