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   螺旋 7   


年内完結は無理が確定しました!
アイヤー。
無計画ぶりが如実に出ております。。



「ただいま」

いつもの癖で口をついて出た言葉に蓮は苦笑した。

1日の疲れを癒してくれる『お帰りなさい』という弾む声も明るい笑顔も、灯りの消えた廊下の先からは返ってこない。

今日から仕事で北海道だとキョーコは言っていた。関東と比べれば気温も随分と低い筈だ。もう雪も舞っているかもしれない。
がんばり屋の彼女が、無理をして風邪でも引いて帰ってこなければいいけれど。

そんな事を考えながら玄関に一歩足を踏み入れた瞬間、肌で感じ取った違和感に蓮は顔を顰めた。


何かが違う。


何かが違うが、その違和感の正体ははっきりしない。
ただ空気が違う気がする。

どこかいつもと違う雰囲気に戸惑いながら、蓮は足を進めた。

リビングに辿り着いて電気をつけると、そこは見慣れた場所だというのに、どこか落ち着かない。
いつも通り整然と片付けられた部屋だと言うのに、何故かそわそわと居心地が悪く感じる。

何かが違う。そう感じるのに、くまなく部屋を見渡しても何が違うのかが分からない。
自分が暮らす見慣れた部屋のはずなのに、何が違うというのか。
疲れているせいだろうか。それとも酒のせいだろうか。酔うほど飲んだつもりは無いが、自分でも気づかないうちに飲み過ぎたのだろうか。

押し寄せる不安を落ち着かせようと、蓮はソファに座り置時計に目を留める。

時間は既に1時を過ぎている。

ふと、その時計の横にあるはずの卓上カレンダーが無い事に気づいた。

そのカレンダーには、蓮とキョーコの2人のスケジュールが書き込まれていた。
忙しい2人がこの部屋で会える日にはマルが付けられている。
キョーコが作ってくれた夕飯を食べ、一緒に夜を過ごす日もあれば、まるですれ違うように、キョーコがドラマの撮影から戻ったその日の夜、蓮がモデルの仕事の為に海外へと飛び立つまでの数時間という日もあった。
そんな日でさえも、キョーコは嬉しそうにマルを付けながら、その日を待ち遠しそうに微笑んでくれていた。
わずかな隙間を縫うように重ねる逢瀬に不満も言わず、会えるだけで十分なのだと気恥ずかしそうに笑うキョーコが愛しくて堪らない思いに駆られた。

その卓上カレンダーが無い。

キョーコが掃除をした時にでも、どこか別の場所に置いたのだろうか。
そう思いながら部屋の中をぐるりと見渡した後、蓮の眉間の皺を濃くした。

やはり部屋の中にカレンダーが無い。

不安になった蓮は立ち上がると、まずカレンダーがあったサイドボードの周りに無い事を確認した後、引き出しの中に仕舞われているのではないかと中身を全て取り出して探す。
更にはサイドボードの裏に落ちてしまったのではないかと、サイドボード自体をずらして見る。
そこにも無い。
同じようにテレビボードも隅々まで探し、カレンダーが無い事にレンの不安は一層色濃くなった。

こんな時間ではもうキョーコもホテルのベッドで夢を見ながら眠っているはずだ。
たのしい夢から目覚めさせるのは可哀想だとは思いつつも、どうしてもキョーコの声が聞きたい。
次に会える日、キョーコが北海道から戻る2日後にマルが付けれられたカレンダーをどこに仕舞ったのか今すぐ教えて欲しい。

蓮はスマホを手に取りキョーコにコールするが、電源を切っているというアナウンスが流れるばかりだった。
飛行機に乗る前に電源を切ってそのままにしているのだろうか。それともわざと電源を切っているのだろうか。
何度かけ直してもキョーコに繋がることは無い。

まさか俺とは話したくないって事?

蓮は通話ボタンを切ると、今朝キョーコと最後に言葉を交わした場所に足を向けた。
愛し合った後、後ろ髪を引かれる思いでキョーコを1人残した寝室のドアを開ける。

キョーコを愛し、その媚態に蓮も本能のまま乱したはずのベッドに、その痕跡は無かった。
シーツは皺ひとつなくピンと敷かれ、綺麗にベッドメイクされている。
そのベッドを横目に、キョーコの服が掛かっているクローゼットを勢いよく開けた。

そこは伽藍堂だった。あるはずのキョーコの服やキャリーバックは消え失せていた。

クローゼットの扉を掴んだ手が震えだす。血の気が引き顔色は真っ青だった。
もしこの場に社が居れば、力づくでベッドに引き倒していただろう。


確かに今朝まで俺は君と一緒にいた。ここで君は笑っていた。

呆然としていた蓮が、弾かれたように寝室を飛び出し、まるで置いていかれた子供のようにキョーコを捜し始めた。
キョーコがこの部屋に居た、自分の愛した存在が確かに自分の腕の中にいた痕跡を、蓮は必死に求めた。

洗面所に置いてあったピンクの歯ブラシが無い。普段家で使う物はドラッグストアで買った物だけれど、ここに泊まれる時だけ使う贅沢品なのだと言っていた、スワンの絵が描かれたメイク落としや洗顔フォームが無い。
浴室に置かれたシャンプーやボディソープも、蓮が使うものしか置いてない。バラの香りがすると言っていたボディソープが置いてあった形跡さえない。

キッチンに走り込んで冷蔵庫を開ければ、そこにはミネラルウオーターだけで、常備菜も卵も置いてない。

部屋へと一歩踏み入れた時に感じた違和感の正体に蓮はやっと気づいた。
最初からキョーコなど存在しなかったかのように、蓮の部屋からはキョーコの存在のすべてが消し去られていた。


『朝食は一日の基本なんですよ?コーヒーはご飯ではありません。目玉焼きとトースト、牛乳だけでも絶対に摂って下さいね』


そう言ったのは最上さんじゃないか。それなのに、卵も牛乳も入ってないよ。
これじゃあ明日の朝、俺はどうしたらいいの?

蓮はシンクにもたれながら膝から崩れ落ちた。

手に持ったままだったスマホのリダイヤルボタンを押した先から流れる機械音だけが、静まり返った部屋の中で響く。
その無機質な音声に堪らず通話ボタンを切った。

まるで最上さんなんてはじめから存在しなかったみたいじゃないか。
今までの幸せは全部嘘だったとでも?まやかしだとでも言うのか。

気が狂いそうだ。
気持ち悪い。吐きそうだ。

助けて。

最上さん、助けて!!


蓮が心の中で叫んだ時、誰もいない部屋の中でカツンと小さな音が響いた。
まるで蓮の悲痛な叫びに応えるように。

音のした方へと表情を失くした虚ろな目を向けると、そこには琺瑯のマグカップが1つ、ぽつんと置かれていた。

それは広い部屋にたった一つ残されていた、ここにキョーコが確かにいた証。

蓮は恐々と黒ヤギの絵が描かれたマグカップを両手で掴むと、大事そうに両手で包んだ。


「最上さん…」


見つけた。
やっと見つけたよ。キョーコがこの部屋に、俺の傍にいた証をやっと見つけた。

「キョーコ…」

蓮は大きな背中を丸めてマグカップを抱え込み、その肩を振るわせ続けた。



続く



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