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   コングラッチェ 38   


明けましておめでとうございます。ナーでございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

本当は大晦日の31日にアップするつもりだったんですけど、忙しくしていたら間に合いませんでした。
久しぶりのコングラです。冴菜さん話にケリを付けて放置気味となってましたが…今年こそ完結させます!




「ただい「ふぬーっ!今すぐ成敗してくれるーっ」」

蓮は部屋の奥から聞こえてきた怒声に一瞬にして酔いが吹っ飛んだ。
1つ上の階の部屋で父親がコレクションしているスコッチを飲んで戻ってきた蓮の耳に、キョーコの尖った声が突き刺さる。
驚いた蓮が急いでリビングに駆けつけドアを開けたその目に飛び込んできたのは、蓮に背を向けてローテーブルの前に座っている、バスタオルを体に巻いたキョーコが一心不乱にシャープペンでカリカリと何かを書き込んでいる姿だった。

まさにお風呂から飛び出してきたのだろう。
髪の先からぽたり、ぽたりと落ちる滴が、うなじを滑り背中を伝い、バスタオルへと到達している。
そしてバスタオルの先からは、上気して薄桃色に染まった太腿が惜しげもなく晒されている。
バスタオル1枚を肌蹴させれば、きっと生まれたままの姿に違いない。

石鹸の香りを纏わせた柔肌をこのまま後ろから抱きしめてしまおうか。
その背中に指を這わせたい。吸い付くような柔肌に誘われるがまま口づけたい。

誘われるようにキョーコの元へと近づいて行った蓮の気配に気づいたのか、蓮に振り返ったキョーコの表情に、劣情は彼方へと逃げ去った。
キョーコは眉間にグッと力を入れ、まるで親の仇を見る様な形相を浮かべて蓮を見つめていた。

蓮は落ち着こうと大きく息をついた。

「そんな恰好で何をやってるんだ。髪も拭かないで風邪でも引いたらどうするの。本番まで1ヶ月切ってるんだよ?」

蓮の一言にビクリと体を震わせる。
ピシリと固まると、つり上がっていた眉が、今度はしょんぼりと情けなさそうに下がって行く。
キョーコの後ろから覗き込むと、テーブルの上には数学の参考書が拡げられていて、その問題を解いていたらしく、ノートには方程式と数列が並んでいた。

「勉強するならきちんと着替えてからやりなさい」
「ごめんなさい。お風呂に入る前に躓いた問題の方程式を湯船につかっていた時にひらめいて、慌ててお風呂から出てきたもので」

少し前に解けたはずなのに、その問題を間違えた事に少し焦ってた。その回答方法が思いついた瞬間、今すぐ解いてほっとしたかったのだと言う。
しゅんとするキョーコにそのまま待っているように言って蓮は脱衣室の棚からタオルを取ってキョーコの元に戻ると、キョーコの前に座り、タオルで髪をゴシゴシと拭きはじめた。
少し力加減が強かったようで、キョーコの頭は蓮にされるがまま前後左右に揺れている。

「まったく…。最後の最後で体調を崩して実力を発揮できなかったら悔しいだろう?」

そう言えば私、今までのテストで実力を発揮できたこと無いし。

うりゅっと目に涙を溜めてキョーコは蓮を見上げる。
その視線を受けて、蓮の手が止まった。

それにこんな問題も解けなかったなんて。
そうよ。昔から一生懸命テスト勉強をしても絶対に間違えるんだ。
どうして私は馬鹿なんだろう。いつだって後から見直せばいつだって解けるはずの問題が不正解になってるもの。
きっとまた同じ間違いを繰り返すんだ。そしてやっぱりお母さんに認めてもらえないんだ。

「うーーーっ」
「ちょっと、最上さん」

とうとう涙を零しながら泣きはじめたキョーコに蓮は慌てた。
零れ落ちる涙を手にしていたタオルで拭いながらもう一方の腕でキョーコを自分の胸に抱き寄せた。そしてキョーコが落ち着くように、大丈夫だと言い聞かせるようにその背中をポンポンと優しく叩く。
その優しさに緊張の糸が切れたのか、キョーコの嗚咽は段々と大きくなって、まるで子供のように声を上げて本格的に泣きはじめた。

駄目だ。センター試験を目前に控えて心が不安定になってる。

目前に迫ったセンター試験に、キョーコが日一日と緊張していくのを肌で感じていた。そして不安を打ち消すように一心不乱に机に向かう姿を蓮は黙って見守っていた。
千織も同じように不安と戦っているようで、ストレスから蓮への当たりは酷くなる一方だった。出会い頭に舌打ちされたり、キョーコの頭を撫でようとした手を叩かれたり、毒ノートを蓮の部屋で声を出しながら綴ってみたり…。

そんな風にガス抜きできずに膨らんだストレスでキョーコは押し潰されそうになっていた。

「最上さん、ほら落ち着いて。最期の総仕上げの時間は十分に残ってるんだから、焦らなくていいんだよ」
「そんなこと言われても…ヒック」

そんな縋るように涙を零しながら上目遣いで見つめるのは反則だよ。
しかもそんなバスタオル一枚越しで、君の体を抱き留めてるって言うのに。
蛇の生殺しってこういう事を言うんだろうな……

千織は予備校の合宿に参加している。テンも年末年始を海外で過ごすと言ってクリスマスの後、南へと旅立った。
それなのに、部屋に残された蓮とキョーコに2人で過ごす甘い時間は訪れてはいなかった。

結局キョーコと蓮がベッドで過ごしたのは、キョーコの心から母親へのわだかまりが消えた日が最初で最後、1度きりだった。
それ以来、蓮はずっと手は出せないでいる。キョーコが大学受験が終わるまで待ってほしいと願ったからだ。
蓮の腕の中はとても温かくて、守られていると実感できる。凄く気持ちよくて自分が自分でなくなってしまう。何も考えられなくなってしまうのだと。

「脳の働きが停止してしまうんです。これって受験生にとって致命的だと思うんです」

それを聞いたとき、蓮は何も考えられなくなってしまえばいい。もっとぐずぐずに溶けてしまえばいいのにと喉から飛び出しそうになる言葉をどうにか飲みこんで、キョーコに分かったと伝えた。

禁断の果実の味を知ってしまったのに、目の前にあるその実を口にしない事を約束するなど、やせ我慢もいいところだった。
分かったと伝えた時のキョーコの安心しきった無邪気な笑顔に、蓮は何も言えなかった。何も言えないどころか、汚い大人でごめんなさいと心の中で懺悔し、さめざめと泣いた。

そんな聖人君子の仮面を被り続けて早7カ月弱か。本当に早く受験が終わって欲しいよ…って大晦日の夜に俺は何を考えてるんだ。
人には108つの煩悩があるって言うけど、俺の煩悩は全部最上さん絡みだと思う。
よし、煩悩を払おう。今すぐ払わないと危険だ。


「ねえ最上さん、初詣に行こうよ」
「へ?今からですか?」

驚いたキョーコが目をぱちくりして蓮を見上げる。

「うん。このマンションから駅の反対方向に歩いた先に小さな神社があるんだよ。合格祈願しに行かない?」
「はい。お参りしたいです」
「今から支度をして神社に着く頃には元日になってるだろうから丁度いいよ。さ、髪をちゃんと乾かして。風邪を引かないように厚着をしておいで」
「へ? ……んぎゃっ!!」

蓮の言葉に自分がタオル1枚と言う姿だった事にようやく思い至ったキョーコは、蓮の腕の中から勢いよく飛び出して自分の部屋へと消えて行った。
その後ろ姿を蓮はクスクスと笑いながら見送った。



夜道を5分ほど歩き、2人は都会の片隅にある神社に辿りついた。
ビルの谷間にあるこの神社の存在を知らなかったキョーコは、興味深そうにキョロキョロと周りに視線を巡らせる。
お札やお守りを授けてくれる社務所も無い、小さな古いお社があるだけの神社だった。そのお社の手前の短い参道には、少なくない人たちがお参りの列を作っている。

「何だか皆さんお知り合いみたいですね」
「そうだね。大きな神社じゃないけれど、地元の人たちに昔から大切にされているんだろうね」

どう見てもパワースポットだとか参拝客が数万人などとテレビで取り上げられるような場所ではない。
参拝者たちはみんな近所の人達なのだろう。新年の挨拶を笑顔で交わしている。その列に蓮たちも並んだ。
しわくちゃの笑顔で頭を下げて挨拶を交わすお年寄りや、夜更かしに限界を迎えたのか母親に抱きかかえられてぐっすりと眠る子供もいる。
そんな様子を眺めているうちに、キョーコの顔に笑顔が浮かんでいた。

「最上さん、明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」

蓮を見上げて笑うキョーコの鼻が少し赤い。
プッと小さく噴き出した蓮を、キョーコは不思議そうに見つめる。

「先生?」
「赤鼻のトナカイがクリスマスを随分過ぎてからやって来たよ」
「ぬぁっ!?」

蓮に鼻をつままれたキョーコが蓮の胸をポカポカと叩いている姿を、他の参拝客たちが温かく見守っていたことを2人は知らない。

暫くならんだ後、参拝の順番が巡ってきたキョーコと蓮は一緒に鈴を鳴らして手を合わせた。
志望校に合格しますように。それと今年も先生と一緒に居られますように。キョーコは手を合わせて真剣にお願いをした。

参拝を終えて、家へ帰ろうと来た道を歩き出したキョーコの足が不意に止まった。

「ハクチュッ」
「プッ…可愛いくしゃみだけど、寒くない?」
「えへへ。大丈夫です」

そう言ってキョーコはハーッと息を吹きかけた両手を口元でこすり合わせている。

「手袋忘れたの?しょうがないなぁ。…それじゃあ片方だけ貸してあげる」

そう言うと蓮は自分がはめていた左手の手袋を外してキョーコに差し出した。その手袋をキョーコは素直に受け取って、左手にはめた。
自分の手よりも断然大きいそれは、指先が随分余るほどに大きい。

「わぁブカブカです…。でも温かい。ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ、はい」

そう言って今手袋を外した左手をキョーコに差し出した。
それを見て、やっぱり返せと言ってるのだろうかと一瞬首を捻りながら、手袋をはめた左手を出すキョーコに蓮は苦笑した。

「そんな子供みたいなこと言わないよ。右手をかして?」

そう言うってキョーコの冷たい右手を握り締めると、そのまま自分のコートのポケットへと招き入れた。

「先生…初詣に誘ってくださってありがとうございます。気持ちを新たにして、よし頑張ろうって思えました」
「それは良かった。でも頑張り過ぎても駄目だよ?二次なんて8割取れたら主席で合格だ。全教科満点とる必要なんかないし、取れる奴なんて居ないよ」
「8割…」

蓮の手を握っていたキョーコの手から力が抜けていくのを感じる。
あったかい、と言って笑いながら蓮を見上げるキョーコの笑顔に、さっきまでの不安そうな陰は無かった。

「そう言えばさっき家で躓いた問題って数学だったよね?」
「はい。そう言えば答え合わせしていないままでした」
「じゃあ、帰ったら答え合わせしよう」
「はい!」
「でも体も冷えちゃったし、風邪を引いたらいけないからベッドの中でね」
「へ?」
「大丈夫。最上さんの思考を停止させたりなんかしないよ。本当はいつでも思考停止させたいって思ってるけどね」
「なななっ!?」

途端に真っ赤になったキョーコの顔を見て蓮は笑った。
初詣で煩悩を払ったつもりだったけれど、神様にも出来ない事はあるようだ。そもそも、そんな簡単に捨てられるものでもないらしい。
キョーコの実力が発揮できれば志望校には合格するのは目に見えているのだ。仕方ない。この煩悩はあと2か月ちょっと、心の奥底に厳重に仕舞い込んでおこう。

「大丈夫。正解していたらご褒美に頭を撫でてあげる」
「…ほんとに撫でてくれますか?」
「うん。1問につき1回。そうだ、俺が出す問題に5問連続正解でキスってのはどう?」
「…3問連続でお願いします」

ちらりと上目遣いで蓮を見上げる、頬を赤く染めたキョーコの顔を見た瞬間、心の奥底に仕舞ったはずの煩悩がカタカタと音を立てた。

母さんは父さんに会いに行って当分帰ってこない。…あの2人、いつまで離婚してるつもりなんだろうか。そろそろ父さんの海外赴任の任期も終わる筈だしな。きっと帰ってきたら考えるだろう。
千織は受験合宿とか言って優雅なホテル生活だしな。最上さんと二人きりにしてやるのだからとか言ってスイートルームにグレードアップしていたのもこの際目をつぶってやろう。
鬼の居ぬ間とはよく言ったものだ。
簡単な問題を出し続けたら叱られるだろうか。キスって言ったけど、ディープなのをし続けたら怒られるかな。…そこから意識を溶かして。

いや、そこまでしたら俺の理性は確実に千切れる。

「よし、早く帰って受験勉強を再開しよう」
「先生、ノリノリですかっ!?何だか目つきも怪しいと言うか色気がダダ漏れ…何だか恥ずかしいですーっ」
「大丈夫。キスだけで我慢しておくから」
「我慢って!!」
「それに選りすぐりの高難度の問題を出してあげるから、そう簡単にご褒美は貰えないよ」
「選りすぐり…望むところです!でもご褒美は私が先生にあげるんじゃなくて、先生が私に下さるんですよ!!」
「そうなの?」
「そうなんですぅっ」

難しい問題と聞いて目を輝かせた君に、満開の桜が咲くのはきっともうすぐ。
そして俺のキスが自分へのご褒美だと言ってくれるのだから、俺の煩悩が解放される日も、きっともうすぐ。



つづく。




煩悩万歳!!
そして受験生の皆さん、受験生の親御様。桜咲くその日を願っております。



Comment
うふふふ
前のお話の「絶対めそめそ泣いているに違いない。千織はぞっと身震いをした。気持ち悪い!」的な妹様の感想は間違ってなかったのですね。

今回「汚い大人でごめんなさいと心の中で懺悔し、さめざめと泣いた。」蓮兄ちゃんに爆笑でした。←

でも、我慢出来ているんですから、偉い偉い!(笑)

Re: うふふふ
魔人様、コメントありがとうございますー!

やっぱり兄妹。
大人ぶった兄ちゃんの心の声などお見通しです。ヽ(•̀ω•́ )ゝ

お兄ちゃん、キョーコちゃんのお願いを聞き届けて色々と我慢しているようです。
我慢というか、色々諸々溜めこんでると言うか(アハ!)
受験が終わるまで、指折り数えてその日を待ってることと思います!

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