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   螺旋 8   


随分間が空いてしまいました。
お恥ずかしい事にお正月に右手の指をざっくり切りまして。キーボードから遠ざかってました。
鋏で切るのが面倒になって、カミソリで行ってみよう!と思ったのが運の尽き。
後はご想像通りです。
何を切ってたかって?鮭とばです。(*゚ロ゚)



蓮がただ1人取り残された空間は、キョーコと出会う前と同じ状態だった。
ハウスキーパーが整えてくれたような無機質な空間は、蓮が母国から逃げるように日本へとやって来て以来数年、とっくに馴染んだ筈だった。

自分の過去から目を逸らすように、寝る間を惜しんで日本語を、日本に馴染むよう『敦賀蓮』を形成する事に打ち込んだ。
どうしようもない罪を犯しながらも、どうしても捨てる事の出来なかった演技への道を、まるで蜘蛛の糸に縋るように手を伸ばして、それこそ血の滲む思いでこの日本で役者としての道を開いてきた。
日本で役者として成功し、いつかは母国へと還る事を目標に、限られた人間と接する以外、ずっとこの空間で1人罪と孤独に苛まれながら耐えてきた。
自分の仕事が認められるようになるにつれて耐える事に慣れていった。そしていつからか、この広い空間に1人でいる事が当たり前だと思っていた。

それなのに、 肌に馴染んだはずのこの空間のこの空気が、蓮を押し潰す。


「うっ…」

嘔吐感に襲われて、蓮は堪らずトイレへと駆け込んだ。


ガンガンと鳴り響く酷い頭痛に、蓮の額には脂汗が浮かぶ。
フラフラと立ち上がると蓮は洗面室へと向かい口をすすぐ。

洗面台の横に置かれた小さな籠からハンドタオルを取り口元を拭った瞬間、蓮は大きく目を見開いた。

そして目を閉じて大きく深呼吸をした。


こんなところにも最上さんの気配を見つける事が出来た。

香水の、誘うような官能的な香りではない柔らかい香り。
それはキョーコがドラマで共演した、ほぼ日替わりで身に纏う香りを変える先輩女優に、無理を言って教えてもらったと言う柔軟剤の香りだった。


「どうですか?この香りだったら敦賀さんの香水の邪魔にもならないと思うんです」

まるで仔犬の様にクンクンと洗いたてのタオルの匂いを嗅ぎながら、台本をめくっていた蓮の傍にやって来た。
いい匂いだけれども蓮が愛用する香水の邪魔になるような代物ではないし、洗濯物もふかふかに洗い上がるので、この柔軟剤を使いたいがどうだろうかと、エプロン姿のキョーコが両手で持ったタオルを蓮に差し出していた。
柔軟剤と洗濯洗剤の違いが分からない蓮は、苦笑しながらキョーコが蓮へと差し出しされたタオルに顔を埋めて深呼吸をした。
すっと吸い込むと少し甘い香りが鼻腔を擽る。それ以上に、ふわふわのタオルの上から、蓮の頬を包み込むキョーコの手のひらが心地よかった。



そのキョーコに包まれた温もりを思い出すように、蓮は洗面所に座りこんだままタオルを顔に当てた。
タオルの香りに、キョーコとの些細な日常がしっかりと積み重ねて来ていた事をまた1つ思い出した事で、蓮の頭の中が少しずつクリアになって行く。



最上さんは何を思って自分が居た事を、自分の痕跡をこの部屋から消した?
彼女の事だ。絶対に何か理由があるはずだ。

俺の事が嫌いになった?
  俺の穢れた魂に気付いて嫌悪した?
    …… それとも他に好きな奴が出来たのか。


いや。

考えたくも無いけれど、もし彼女の心が俺から離れたとか、何か最上さんに非がある事ならば、こんな事態は有り得ない。
律儀な最上さんが、理由も告げずに黙って消えるように出て行くなんて考えられない。
俺に原因があることに違いない。
きっと俺の事で何か悩んでいたんだ。

どうして俺に何も言ってくれなかった?何もぶつけてくれなかったんだ!?
……どうして俺は最上さんが俺の事で辛い思いをしている事に気付けなかった!

タオルをぐっと握りしめる蓮の拳が震える。

今朝、ベッドルームで最後に見た彼女は笑顔だった?
思い出せ…思い出すんだ。どんな些細な事でも、1つ残らず全てを思い出すんだ。


蓮はギュッと目を瞑り、脳裏にキョーコの顔を思い浮かべ続けた。
それこそ必死に、消えてしまったキョーコがこの部屋に確かに居た事を確認するように思い返し続けた。

正面に座って夕飯を食べながら交わした会話を、その表情を。
ベッドでの熱い息遣いや触れた体温を。
蓮の首に回したキョーコの細い白い腕に、いつもより情熱的に求められた事を。

涙を湛えた縋るようなキョーコの表情に歓喜して、蓮は自分の箍が外れる音を聞いた。
そしてキョーコの全てを貪るように、壊し尽くすように、腕の中の愛しい存在を抱き潰した。


もしもあの涙が、熱に浮かされた生理的な涙ではなかったのなら。
一体何を決意して流した涙だったと言うのだろうか。


ごめん、最上さん。俺は一体君に何をしてしまった?
俺には全く思い当らないんだ。


俺はどうしたらいい?どうしたら君を取り戻せる?

違う道を歩む事を君が望んでも、たとえそれが運命だとしても

俺は神にだって背いてやる。必ず君をこの腕に取り戻してみせる。



たとえ君がそれを望まなくとも




続く



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