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   螺旋 9   


蓮誕やらバレンタインやらお祭りも終わり、定常運転に戻ります。
まずは螺旋からですが、今回はキョーコちゃんの気持ちです。


朝からスタートした、札幌近郊の観光スポットを巡る撮影は順調に進んだ。

場外市場では自分の顔よりも大きな蟹を持ち上げたり、いくらとウニの二色丼定食に舌鼓を打って新鮮な海の幸を紹介した。腹ごなしにと大通り公園を散策した足で辿り着いた、ビルの隙間にちんまりと建つ時計台に拍子抜けした後、行列が出来る有名ラーメン店でアツアツの味噌ラーメンを啜った。
午後は小樽運沿いのガラス工芸の工房でビードロの作成に悪戦苦闘しながらも、キョーコはもう1人の女性タレントと笑顔で仕事をこなした。

「やっぱりさっきのお店でお土産ダッシュで買ってくるから、京子ちゃんは先に集合場所に戻ってて!」

すぐに追いかけるからと言い置いて、来た道を走って戻るもう1人の番組リポーターの後ろ姿を、キョーコは少し羨ましそうに見つめた。

先程までキョーコたちが体験リポートしていたガラス工芸のお店を出る間際まで、彼女は切子硝子のコップをじっと眺めていた。
水を入れると、底に彫られた桜の模様がまるで浮かんでいるように見えるコップに、彼女は一目惚れしたのだ。

撮影の合間にも、その桃色のコップを手に取って彼へのお土産に買おうかどうしようかとずっと悩んでいる様子に、スタッフたちは買っちゃえばいいのにと笑いながら声をかけていたが、コップにこの値段はちょっと、と散々悩んだ挙句、両手に1つずつ持っていたコップを名残惜しそうに棚に戻し、その店を後にしたのはついさっきの事だ。

彼氏とペアで使うには乙女チックすぎるかなと悩んでいた顔も、清水の舞台から飛び降りる覚悟を決めて店へと駆けて行く彼女の笑顔も、キョーコの目にはとても魅力的に映っていた。

きっと素敵な恋をしているのだろう。

テーブルで向かい合う大好きな人とお揃いのコップを持って微笑む彼女を想像したところで、キョーコの緩んでいた頬がピクリと引き攣った。

それと同じような光景が、キョーコの記憶からふわりと浮上したのだ。

キョーコとお揃いのマグカップを片手に、淹れたれのコーヒーの香りに目を細めて微笑む蓮の穏やかな表情を思い出して、キョーコの胸はツキリと痛んだ。

その微笑みの先に、キョーコがいる未来はもう叶わないのだ。
それどころか、思い出したその光景で蓮が見つめていた先に、キョーコは居なかったのかもしれない。
痛む胸を抑えながら深呼吸をすると、あの時漂っていたコーヒーの香りが胸いっぱいに広がった気がした。

キョーコがぼうっとしているうちに、無事にコップを買えたのだろう。大事そうに紙袋を胸に抱いた彼女が満面の笑顔でキョーコの元へと駆け寄ってくる。

「ごめんねっ!待っててくれたの!?」
「…はい。お土産が買えて良かったですね。じゃあ行きましょうか」

過去の幸せな場面を記憶の底に沈めて、キョーコは一歩を踏み出した。

「京子ちゃんは彼にお土産買わなくていいの?」
「…彼氏なんていませんし。それに……」
「あ、もしかして片思い中とか?京子ちゃん可愛いんだから大丈夫だよ。告白してみればいいのに」

言い淀み苦笑して見せるキョーコに、彼女は頑張ればいいと笑う。

全然ダメダメなのに。一体何が大丈夫だと言うのだろう。
キョーコは自嘲するように哂った。

「事務所でお世話になっている先輩にお土産は買って帰るつもりです。『白い恋人たち』をリクエストされましたよ」
「えー。なんか名前間違ってない?」
「そうですよねぇ。でも折角ですし、ちゃんと買って帰ろうと思ってます」
「あのホワイトチョコって本当に美味しいよねぇ」

話の矛先を変えてキョーコは溜息を噛み殺した。

まだお土産を直接蓮に渡せるほど心は立ち直っていない。
きっと笑う事は難しいだろう。不自然な笑みなど見せれば、勘の良いあの人の事だ。すぐに演技だとばれてしまうに違いない。
事務所に顔を出した折にでも松島に預けておけば、きっと蓮の手元に届くだろう。

他愛ない話をしながら集合場所に到着したキョーコたちが移動車に乗り込むと、ほどなく次の目的地に向かって走り出した。
車中でプロデューサーからの差し入れだというシュークリームを受け取る頃には、胸の中で燻っていたコーヒーの香りもかき消されていた。


1時間ほど走り到着した定山渓の山肌は紅葉に染まりつつあった。あと2週間ほどすれば、綺麗に色づいた紅葉や楓で燃える様な赤い渓谷となるのだろう。
そして紅葉の時期が過ぎればすぐに一面の銀世界がお目見えするはずだ。
その渓谷が一望できる、温泉宿自慢の源泉かけ流しの檜風呂と、海の幸・山の幸をふんだんに使った豪華な夕食を堪能した。

カットの声がかかった後、映像を確認したプロデューサーのOKの声と共にその日のロケを無事に終え、そのままスタッフたちと食事処での宴会へとなだれ込んだ。
乾杯の声に、ウーロン茶を注いだグラスを持ったキョーコもほっと安堵の息を漏らした。

明日は動物たちの行動展示で有名になった動物園での撮影を残すのみだ。
天気予報でも明日は晴れると言っていた。きっと順調に仕事を終えて、夕方には東京へ帰る事になるだろう。

蓮のいる東京へ。

「京子ちゃんどうしたの?何だか浮かない顔をしているよ?」
「そっそんな事ないですよ」

ブンブンと首を振って、心配そうにキョーコの様子を見つめるスタッフに慌てて笑顔を見せた。

「リポーターのお仕事、私初めてだったんです。緊張が一気に緩んで疲れが出ちゃったのかもしれません」
「そうなんだ?熱心にお店とか紹介してたから慣れてると思ってた」
「本当ですか。ありがとうございます」

自分の仕事ぶりがそう評価されるのは素直に嬉しい。

けれど

「すみません。ちょっと頭が痛いので先に休ませていただきます」
「大丈夫?顔色が悪いよ?」

今日1日、自分を支えてくれたスタッフたちの労を一緒に労えないのは心苦しいが、それ以上に楽しく酒を酌み交わすスタッフたちにこれ以上暗い顔を見せる訳にはいかない。
キョーコは謝りながら宴会の席を抜け出すと、その足で温泉へと向かった。



「ハァ…」

湯気が立ち上る温泉の大浴場で、キョーコは湯に体を預けて1人物思いに耽っていた。

思い巡らせることは1つしかない。

きっと昨日、蓮は想い人である『きょーこちゃん』との再会を果たはずだ。一体どんな気持ちで再会の時を迎えたのだろう。
ここでは誰も愛せないと、哀しそうに、痛みを堪えるように顔を歪ませてその心情を吐露していた蓮を救い出せる唯一の女性。
その想い人が蓮の元に還って来た今、自分の出る幕などこれっぽちも無いのだ。身のほどを弁えているつもりだし、今更、体だけじゃなく蓮の心も欲しかったなどと言い出すつもりなど更々ない。

今頃蓮の部屋で2人の時間を過ごしているかもしれない。昨日の朝まで、キョーコがいたあの場所で。

蓮の事を想うと胸が苦しい。ギュウギュウと締め付けられて苦しくてたまらない。
キョーコの事など愛していない蓮の事など、嫌いになれたらいいのに。自分を利用するだけ利用して、ポイッと捨てたショータローのように憎めたらいいのに。

けれども

まるで壊れ物を扱うように、そっとキョーコの肌を辿る大きな掌から伝わる熱は本物だったと信じたい。
蓮の息遣いを忘れたくはない。
キョーコが付けた背中の爪痕が一生消えなければいい。

やっぱり

自分の恋情を蓮に受け止めて欲しかった。
自分を…誰でもない、『最上キョーコ』を見て欲しかった。
「きょーこちゃん」じゃなく、私を「最上キョーコ」を見てと叫びたかった。

本当は身代わりなんか嫌だった。



蓮に愛されたかった。


「ヒック … ッ …」


嗚咽を必死に噛み殺しながら、キョーコは窓の外に広がる暗闇を眺め続けた。




続く



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