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   螺旋 12(完)   


何とか螺旋、完結です。
キョーコちゃんと敦賀氏の葛藤が少しでも書けたら、と始めた螺旋でしたが、
勢いとおバカが主成分のナーには予想以上にハードルが高かったです。
そんな最終話ですが、よかったら読んでやってください。


毎夜、蓮の腕の中で気を失うように眠るキョーコにずっと囁き続けてきた。

愛してると

まるで一生解ける事のない呪いのように。
それが伝わっていなかったのか。どうして伝わらないのか、受け止めてくれないのか。
もどかしくて仕方が無かった。

キョーコの気配の消えた部屋の空気が気持ち悪くて仕方が無かった。
キョーコが居ないだけで蓮はどうしたらいいか、どうやって息をしたらいいかも分からなくなったと言うのに、キョーコは別の男に笑いかけていた。

どうしたら気持ちが伝わるのか。壊さないように、真綿に包むように、慎重になっていたのが間違いだったのか。
…それならやり方をかえよう。蓮無しではいられないように。逃げ出せないように、力づくて奪い尽くすように、毎夜抱き潰してしまおう。

蓮の腕から逃げ出せないように。逃げる気力も何もかも奪ってしまおう。これから芸能界という世界を自由に飛び回ろうとする背中の羽さえ蓮を置いて行ってしまう物ならば、躊躇いなくこの手で毟ってしまおう。

仄暗い思考に取りつかれた蓮は、車を降りる気配を見せないキョーコを抱きかかえて車から降ろし、嫌がるキョーコを無理矢理ベッドに押し倒していた。



どうして空港に現れたりしたのか。どうして放っておいてくれないのか。この2日間、きょーこちゃんとどうやって過ごしていたのか。

この部屋で、このベッドできょーこちゃんを抱いたのか。

本当は捲し立てたくなるほど、聞きたいことは山ほどあった。
それに『きょーこちゃん』の身代わりにされた事の悲しみも絶望も、自分でも嫌だと思うほどドロドロと汚い嫉妬も、沸々と湧き上がる怒りに変換して全てぶちまけてやりたかった筈なのに。


『置いていかないで』


痛みを堪える様に眉を寄せ、まるでキョーコに縋るかの様に視線を反らさず涙と共に紡がれた一言に、キョーコの胸にとぐろを巻いていた黒い渦が一瞬で霧散してしまった。

キョーコの方が蓮に置いてきぼりにされた筈だったのに。掴んでいた手を先に放したのは蓮の筈なのに。
それなのにどうして蓮の方が置いて行くなと、まるで子供のように駄々を捏ねているのだろう。

変なの、とキョーコは回らない頭でぼうっと考えていた。
そんな霞んだ思考の中、涙に濡れて、まるで宝石のようにキラキラ輝く蓮の瞳を、キョーコはじっと見つめていた。

痛い程に肩に食い込んでいた蓮の指からは、いつの間にか力が抜けていた。



「キョーコちゃん…」


まるで羽虫の羽ばたきのような微かに掠れる声に、キョーコは我に返った。

「…何を言ってるんですか。敦賀さんには…敦賀さんには本物のきょーこちゃんがいる癖に。偽物の私なんか用済みの癖に」
「本物? … 何を言っているの?」
「私、知ってるんです。敦賀さんが本当に好きな人が帰って来た事。薔薇の花束が似合う素敵な女性なんですよね」
「どうして!どうしてそんなことを言うの?」
「だって私の事を 『きょーこちゃん』って … 私が眠った後でしか、敦賀さんはそう呼んでくれませんでしたから。だから、私じゃない誰かを敦賀さんは求めてるんだって。私はその『きょーこちゃん』の代わりでしか無い事は、重々承知しています」

キョーコの話を聞きながら、蓮は顔を歪ませて必死に首を振る。

「違う…違う違う!」
「もういいんです。先日敦賀さんと社さんが楽屋で話しているのを聞いてしまったんです。2日前にやっと…やっと敦賀さんの元にきょーこちゃんが帰って来たんですよね」

蓮がずっと焦がれ続けていた『きょーこちゃん』が。『きょーこちゃん』を待ち続けた蓮の元に。

「だからもう、同じ名前の私が身代わりを務める必要なんか無い筈です。それなのに …… 敦賀さん、酷いですよ」

後から後から勝手に溢れてくる涙で蓮の顔が歪んで見えた。

恋い焦がれた蓮に抱かれて言葉通り天にも昇る気持ちだったキョーコを、蓮は優しく抱きしめたまま奈落の底へと突き落とした。
ベッドでの情事の間も蓮はキョーコを『最上さん』と呼び続けたのに、眠ったキョーコを蓮は初めて『きょーこちゃん』と呼んだのだ。
蓮の腕の中で幸せを噛みしめていたキョーコが、眠ってなどいなかったことに気付かずに。

されたあの日から、じくじくとした痛みを抱え、蓮を想って涙を流し続けた。
流し続けたはずなのに、この2日間で嫌と言うほど泣いたのに。それでも涙は枯れてはいなかったらしい。


キョーコの嗚咽に肩を掴んでいた蓮の腕がびくりと震えた。そして肩から手を離して、そっと指でキョーコの涙を掬った。
次から次へと溢れてくる涙を、蓮はオロオロと、怯える手つきで拭い続ける。

自分の涙を拭えばいいのに。
そう思いながら、キョーコはそっと手を伸ばして蓮の頬に伝う涙を拭った。


キョーコの指から伝わる優しい温もりに、蓮の感情が爆発した。


「違う!俺はっ…おれは最上さん… キョーコちゃん。君が、君だけが好きなんだ!」

びくりと体を震わせた。

「何を言ってるんですか。そんな事言ったら、敦賀さんの大切な人が泣いちゃいますよ?」
「どうして?俺が好きなのは、こんなにも感情を揺さぶられるのは君だけなんだ。他の誰かなんてどうでもいい!大体、2日前に俺が薔薇の花束を持って迎えに行った『きょーこちゃん』は大御所女優の岸きょうこさんだ。最上さんも知ってるだろう」
「岸さん?」
「うん」

芸歴30年を超えるベテランの名前にキョーコは動揺した。
確かブロードウェイでの主演ミュージカルのロングラン興行を果たした岸を、LME事務所総出でお迎えをするのだと聞いていた。
派手好きな社長が、凱旋帰国サプライズパーティを開くのだと鼻息荒く準備を進めていた。生憎キョーコは北海道での仕事の為、そのパーティには不参加となったが、都合のつく所属タレントの多くが参加した筈だ。
それに岸は目をかけた女優や俳優には自分の事をちゃん付けで呼ばせているという噂も聞いたことがある。

それじゃあ、スケジュールの調整をしてまで蓮が迎えに行ったのは岸の為だったのか。その手に抱えた筈の大輪の薔薇の花束は、ショービズ界の本拠地での成功をおさめた大女優への敬意と信愛を表したものだったというのか。

それじゃあ

蓮がベッドで『きょーこちゃん』と思いの丈を込めて呟いていた相手は、自分の事だったのだろうか。

そう思い至り、動揺したキョーコは蓮から目を逸らした。

「駄目。俺から目を逸らさないで。本当の事だけを話すから。だから俺の目を見て」
「だって …… そんな …… 私のこの葛藤は一体何だったんですか……」

蓮はキョーコの涙を拭っていた指を、呆然と蓮を見つめるキョーコの頬を包むようにそっと触れた。

「君以外に好きな人はいない。君だけなんだ。この2日間、どうやって仕事をしていたかも覚えてない。ただ、椹主任から教えてもらった最上さんが羽田に戻るフライトに合わせてるように、仕事をこなしただけだった。本当は仕事なんて投げ捨てて、最上さんを追いかけたかった。でも、そんな事をしたら軽蔑されると思って、必死に我慢して…それなのに、空港で知らない男と楽しそうに話をしている君を見た時は血の気が引いたよ。全部…全部遅かったんじゃないかって」

理性が吹き飛んだ瞬間を思い出して、蓮は眉を顰めた。

「どうして、私の目を見て、私をキョーコちゃんって呼んでくれなかったんですか」
「それは俺が弱いからなんだ。本当は意識のある君を『キョーコちゃん』と呼びたかった。俺の呼びかけに微笑む君の笑顔を見たかった。 …でも、それは許されない」

自分は愛を囁く資格が無い人間なのだ。

愚かな自分のせいで、幸せになるはずだった親友を死なせてしまった。親友の恋人から最愛の人を奪った忌わしい存在なのだ。
そんな自分が愛しい存在を作ることなど、決して許されないと思って生きてきた。

それなのに、愛しい存在を見つけてしまった。好きになってはいけない、望んではいけない自分に言い聞かせても、魂が彼女を求めてしまう。
必死に目を背けても、彼女の気配を追ってしまう。


そしてとうとう触れてしまった。


一度触れてしまえば、箍が外れる事など分かっていたのに。

獰猛な獣のように瞳をぎらつかせ、牙をむき出す自分を、しなやかで柔らかい獲物は自分にくらいつく獣を受け入れ、その上牙を立てろと自ら喉元を晒し喘いで見せた。
本能のまま獲物を何度も何度も貪った。

幸せだった。

もう、このまま死んでもいいと思うほど心が満たされたと同時に、親友の顔が脳裏によぎった。
次に浮かんだのは、永遠の愛を誓うはずだった恋人を奪った蓮を睨みつけた彼女の形相だった。


その罪悪感から、キョーコを名前で呼ぶことを、愛の言葉を語ることを躊躇った。
それでも、蓮はキョーコを手放す事など出来なかった。遅すぎたのだ。

だから、せめて愛する人に紡ぐ言葉を禁じるから。だからキョーコの傍に居る事を赦して欲しい、そう願ってしまったのだ。


「許さないって、一体誰が許さないんですか?」
「最上さん…」
「私はっ 私はあなたに、敦賀さんに愛してるって言われたかった!!言って欲しかったっ」
「うん…。俺も言いたかった。でも、言わなくても伝わってると思い込んでいたんだ。…本当に愚かだよね」

自分の気持ちに中途半端に蓋をして。その中途半端加減に大切な人を傷つけ続けていた。
それに気づかずにいた自分が情けなく、愚かだった。

もっとキョーコに心を開いていたら。
自分の過去への葛藤を、汚い、偽りのない自分を少しでもキョーコに曝け出せていれば、こんな事にはなっていなかった筈だ。
きっとキョーコならば、真っ直ぐに見つめて真剣に聞いてくれた筈だ。1人では目を背けたくなるような事も、手を繋いで励まして前を見ろと、一緒に考えようと言ってくれたに違いない。
もし、話したせいで蓮に失望したとしても、きちんと理由を告げて去って行った筈だ。

「私、次に好きになる人には、自分の言いたい事をきちんと言おうって思ってるんです。たくさん衝突するかもしれないし、嫌がられるかもしれない。それでも、その人の顔色を窺ったり、空気を読んで1人で耐えるなんて、もう絶対に嫌だって思ったんです。ちゃんと本心でぶつかりたいんです」

『次』という言葉に蓮はガンと頭を殴られたような衝撃を耐えるのに精一杯で、無言でキョーコを見つめ続けた。

キョーコはその眼を逸らさずに見つめ、深呼吸を1つした。


「そんな我儘で面倒な私ですが、敦賀さんの事を、また好きになっても … まだ好きでも 」


いいですか?


震える声を聞いた瞬間、蓮はキョーコの肩口に顔を埋めて、キョーコの体をぎゅっと抱きしめた。


「俺を許してくれるの?」


キョーコに蓮の顔は見えない。それでも伝わってくる振動から、きっとまた泣いているんだなとキョーコは思った。

「許します。許しますから。だから… だから、私の名前を呼んでください」

「ッ…キョーコ」

「はい」

「キョーコ」

「はい」

「キョーコキョーコキョーコキョーコ!!」

「はい」

「愛してる」

「ふぇっ…  私も、敦賀さんの事を愛してます」


蓮はキョーコを力の限り抱きしめた。
互いの体から伝わる温もりと震えが、とても愛しかった。もう、何があっても絶対に手放したりしたくない。

その為には
 過去の傷に向き合うしかない。
 真っ直ぐに受け止めるしかない。

キョーコに自分の過去を知られて、軽蔑されるのではないかと恐れた蓮。
蓮が口にした『きょーこちゃん』とは誰かと、自分ではない誰かの事だと勘違いし、問えずに1人絶望したキョーコ。

自分たちに何よりも足りなかったのは会話だったのだ。互いを気遣ったつもりが、互いを傷つけてしまったのだ。


蓮が背負ってきたモノを、どう説明するのか。キョーコも、それをどう受け止めるのか。
一生懸命2人で考えても、正しい答えは見つからないかもしれない。間違うかもしれない。それでも、2人で答えを見つけて行こう。
今までの事、そしてこれからの事。

ゆっくり、話をしよう。


「キョーコちゃん、俺の話を聞いてくれる?」
「はい。勿論です」


2人で選んだお揃いのマグカップでコーヒーを飲みながら、話をしよう。

蓮のリクエストだった北海道土産もある。お茶菓子にぴったりな甘いクッキーのはずが、きっと苦い味がするのだろう。
でも、きっと忘れられない味になるに違いない。

2人で、仔ヤギのマグカップを持って向かい合って、沢山話をしよう。








Comment
完結おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした。

螺旋の二人は、やっと己の本音を口にすることができましたね。

互いに心に思っていることをちゃんと伝えあうことの大事さを知った二人の今夜の会話は深くて辛い、なのに、甘くて優しいものとなることでしょう。

そして、今後この家ではペアなものが沢山増えそうな予感。←蓮さんがやらかしそう。


素敵なお話をありがとうございます。大満足しました。
Re: 完結おめでとうございます。
まじーん様

いつもコメントありがとうございます!!
そして拙い妄想を読んで下さってありがとうございました!

自分の気持ちを伝えなかったばかりに、大切なものが腕の中からすり抜けて行きそうになって。
敦賀さんは必死にキョーコちゃんへと手を伸ばすんでしょうね。そしてそれをキョーコちゃんはしっかりと掴んでくれる筈。

そして色んなペアが増えるんでしょうねー。
スリッパとかパジャマとか、いそいそとお店に通う敦賀さんが浮かびます!!
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