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   お裾分け   


黄金週間、終わっちゃいましたね。さーみーしー。
皆様は何をされてました?ナーは股関節痛くなるほど歩いたり。まだ痛いです。
久しぶりに短編です。ぽよんと浮かびました。


カランコロンとベルを鳴らしながら勢いよくドアを開け、濡れ鼠状態の若いカップルが駆け込んできた。

「ふえーーっすっごい濡れたー 本降りになっちゃいましたね!!」
「流石に焦ったね」

朝からどんよりとした曇り空で、お昼を過ぎた頃からはパラパラと小雨もちらついていた。
今日はお客様もあまり来ないだろうと予想していた通り、海沿いの道を少し上がった場所にあるこのカフェには、常連のランチ客を送り出してからは1人の客も来なかった。
そしてつい先程から雨脚が強くなってきていた。

そんないつ本降りになるか分からないお天気模様の中、カップルは海辺を散歩に来ていたらしい。
観光名所から離れた、地元住民の散歩コースでしかないこんな海辺にやって来るとは物好きすぎる。

強まってきた雨に慌てて走り、たまたま目についたこのカフェへと走り込んだのだろう。
キャップを目深にかぶった黒いTシャツにジーンズ姿の彼氏が、ワンピースを着た彼女に頭からすっぽりとかぶせていた自分のジャケットを取ってやる。

「いらっしゃいませ。大丈夫ですか?」

そう言いながら差し出したタオルに恐縮する様子を見て、感じの良いカップルだなぁなどと思ってしまうのは、私がオバサン世代に突入した証拠だろう。

「どうぞ使ってください」
「すみません。ありがとうございます。遠慮なく使わせていただきます」

そう言ってペコリと頭を下げてタオルを受け取ると、女の子は安堵した表情を見せた。

びしょびしょだぁと言いながら、頭にタオルを置いてガシガシと濡れた髪を両手で拭く女の子の手を制するように、大きな手を彼女の手に置いた。

「拭いてあげるよ」
「大丈夫です。自分で出来ます」
「良いから。毎晩やってあげてるでしょ?ほら、タオル貸して」
「恥ずかしいから嫌ですってば!!そっそれよりほら、メニュー見ましょう!!」

真っ赤になってチラリとこちらを見た女の子に『ごちそうさまー』と肩を竦めてから、水とおしぼりを置いて2人から離れた。
様子を窺えば、メニューをじっくりと見つめる彼女の髪を彼が優しい手つきで拭いていた。

初志貫徹か。なかなかやりおる。

そろそろ頃合いだろうか。オーダーを取りに2人の世界…じゃなくて2人のテーブルに歩み寄る。

「ご注文はお決まりですか?」
「俺はブレンドでお願いします」
「私、カプチーノと小倉バターパンケーキにします!」
「あれ?アイスはトッピングしないの?」
「あうぅぅ。でもカロリーダイナマイツ…」
「そんなの気にして我慢しちゃっていいの?」
「うち、アイスも自家製なんですよ?」
「食べます!」

クスクスと笑いながら、聞こえていた筈のオーダーを店主の夫へ渡し、パンケーキの生地を冷蔵庫から取り出した。
小さな店内だ。それに他にお客も居ない今、カップルの会話は静かなジャズの音色に乗せてカウンターへと運ばれてくる。

「雨、やまないかなぁ」
「どうだろうね。天気予報も曇りのち雨だったしね」
「ですよねぇ…久しぶりの休日だったのに…」

少し萎んだ表情を見せた彼女だったが、すぐに笑顔を取り戻した。

「でも、その雨のお陰でこんな素敵なカフェが発見できたんですから、結果オーライですよね!」
「そうだね。でも急な雨に驚いて走ったから、車を置いた場所と逆方向に来ちゃったみたいだよ?」
「ありゃぁー」

現在位置と車を置いた場所を検索をしたのだろう。スマホを仲良く2人で覗き込んでいる。

「雨が止まないようだったら、ビニール傘持って行ってください」

そんなやり取りにクスリと笑っていたら、コーヒーをサーブしていた夫がお客様に話しかけた。
驚いた。普段、お客様の会話に進んで入って行かない人なのに。珍しい事もあるものだ。

急に話しかけられて驚いた顔をした二人だったが、どうせ余っているビニール傘なのだから持って行って構わないと重ねれば、恐縮したように頭を下げた。

「じゃあ、1本帰りにお渡ししますね」
「2本あっただろ?」
「ぴったりとくっついて歩いた方が良いわよね」
「お気遣いありがとうございます」

にこりと笑う彼に、フライパンを操る夫もなる程と頷いた。
どうやらパンケーキも焼けたようだ。

そんな周りの顔をキョロキョロと見渡して、顔を真っ赤に染めた女の子は本当に可愛らしかった。


カプチーノに描く絵は、リンゴで決まりだ。
…描いた事ないけど、うまく描けるかしら?


「おいしーっ!バニラアイス、諦めなくて良かったです」

出来立てのパンケーキを美味しそうに頬張る彼女の顔を、彼は優しい微笑みを浮かべながら頬杖をついて眺めている。

よくもまぁ飽きもせずに眺め続けられるものだと思う。

時折聞こえる「あーん」と言う小さな声にチラリと窺えば、少し困ったように眉を下げて、それでも差し出されたパンケーキに大きく口を開けて待っている。

まるで小さな雛が大きい親鳥に餌付けをしているようで面白い構図だった。

「ほらよ」
「ん?何?」

夫から差し出されたコーヒーには、バニラアイスが浮いていた。
…砂糖とミルクの代わりだろうか。客さんがオーダーしてくれたトッピングのバニラアイスを浮かべてくれたらしい。
思わず笑ってしまった。

「何、急に笑って」
「ううん。幸せのお裾分けを貰った気がしたの。ありがとう」
「そっか」

そう言うと夫は自分用に淹れていたコーヒーに、バニラアイスを掬うのに使ったスプーンをぽちゃんと入れてクルクルと掻き回してゴクリと飲んだ。

どうやら夫も幸せのお裾分けを頂いたらしいと思うと、プッと噴き出してしまった。
そんな私の顔に居たたまれなくなったのだろうか。後は頼んだと言って夫は奥へと下がって行った。


ふむ。可愛い所もあるものだ。


雨にけぶった海岸をただじっと眺めたり、ふと思いついたように何かを囁き合う2人は、ただその空間で寄り添い合うだけで幸せなのだと、お互いを見つめる視線が物語っていた。
晴れ間が訪れる事を望むカップルには悪いが、そんな2人を見ていたら、このまま雨が止まなくても良いんじゃないかなどと思えてしまう。


優しい時間の流れがとても心地いい。


「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!コーヒーもパンケーキも凄く美味しかったです。また来ますね」
「ありがとうございました。今度は晴れた日に是非いらしてくださいね」
「はい!」

止む気配のない雨の中、寄り添って帰って行く2人を見送る。
すると傘を持つ彼が、彼女が濡れないようにと傘を彼女の方へと傾けているのを見て最後にもう一度クスリと笑ってから店内へと戻ると、夫が奥から出て来ていた。

折角だから2人を見送ればよかったのに。

「次本当に来たら、記念にサイン欲しいな」
「サインよりツーショット写真撮らせてほしいわー」

贅沢だなぁと呆れる夫に、パンケーキと交換ならきっとOKしてもらえる筈よと笑う。
カチャカチャと後片付けをしている夫も、2人が有名芸能人だと言う事にやっぱり気が付いていたようだ。

「京子、可愛かったわねぇ」
「ああ。敦賀蓮も男前だったな。でも、何ていうか普通のカップルだったな」
「そうね。どこにでもいる普通のね」

ただちょっと彼女を見つめる視線が優しすぎて、こっちが胸やけしそうだったけどね。


「ねえ、家まで傘さして帰ろうよ」
「すぐ裏だろ。それに1本やっちまったから、ピニ傘1本しかないぞ?」
「そうね」

京子と敦賀蓮のように、例え15歩でも寄り添って帰るのも、久しぶりには良いんじゃないかしら?
夫は私の為に傘を傾けてくれるかしら。呆れ顔をしている夫にはあまり期待は出来ないけれど。


2人からの幸せのお裾分けは、心の芯をほわほわと温かくしてくれた。



おわり。



Comment
有名人カップルのデート
雨に濡れても、良いお出かけになったみたいですね。
優しい店主夫妻に静かに見守られ、普通のカップルのような時間を店内で過ごせたんですから。

あま〜いお裾分けで、自分たちの幸福度をあげられる店主夫妻も素敵でした。
お裾分けありがとうございました
harunatsu7711と申します。
蓮とキョーコのデートと、カフェの夫婦の対応で、私も心がホワッとしました。

やはりカフェの夫婦は、二人に気付いていたのですね!
Re: 有名人カップルのデート
まじーん様

コメントありがとうございます!!
きっと本当に数カ月ぶりのお出かけだったら、天気が少しくらい悪くても決行しちゃいますよね。
穏やかに時間が流れるカフェで、美味しいコーヒーと大好きな人がいたらもう十分みたいな。
ご馳走様~。な雰囲気がかけてたらいいのですがーっ(汗)
Re: お裾分けありがとうございました
harunatsu7711様

コメントありがとうございます!!
ホワッとしてもらえてうれしいです!
ほんわか甘い空気が漂わせられてると良いのですが、どうでしょう。

カフェ夫婦は神対応ですよね。2人がふらりと気軽に立ち寄る店になるんでしょうねー。

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