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   あなたの隣に 3   


うだる暑さの中、甲子園始まりましたね!オリンピック始まりましたね!
みんながんばれーっと、エアコンの効いた部屋からエールを送ってます。
皆様、熱中症には十分お気を付け下さいませ。というのを言い訳に、エアコン使ってます。




次の日、蓮と社は古参清掃員の麻里子から教えてもらった鯛焼き屋に訪れた。
その店は事務所からほど近い場所にあった。

きっと3時のおやつ目当てなのだろう。近所に住む子連れの主婦や老人たちが数人並んでいる最後尾に、若い男2人が並んでいる様子は周りには滑稽に映ったようだ。
ジロジロと見られはしても、人気俳優の表情を盗み見しようとする慣れた視線とは全く違う、居心地の悪い視線だった。

「社さんがスーツだからですよ。こんな時間にサラリーマンが仕事をさぼってるって思われてるんです」
「何だよ。お前が濃いサングラスをかけてるのが悪いんだよ。あんなに怖そうなのに甘党なのねーとか思われてるんだよ」

お互い、正しい観察眼を持っているようだった。

そんな視線に耐えながら蓮たちは鯛焼きを購入して事務所へと急いだ。

蓮が放り投げた先で床に蹲る少女が、一体何が起きたのか理解できないまま呆然とレンを見上げた時の表情は蓮の瞼にこびりついている。
その少女の表情は、これから突然現れる蓮を前にきっと怒りに変わるだろう。
それでも、鯛焼きに免じて昨日の暴挙を赦してもらえるだろうか。

そんな風に緊張しながら訪れた清掃管理室で、キョーコはもう帰ったと教えられた時は徒労感でその場に膝をつきたいほどだった。

「惜しかったね。入れ違いだよ」
「麻里子さん…」

昨日、予定より帰りが遅くなってしまい行けなかった同僚のお見舞いの為に、いつもより30分ほど切り上げて帰って行ったのだと麻里子は言った。
その同僚こそ、最上階フロアの清掃担当なのだそうだ。

「頼子さんは独り身だからね。キョーコちゃん優しいから、スーパーで何か見繕って行くんだって言ってさっき出てったよ」
「そうですか」
「それはそうと、敦賀さんのぶら下げてる袋からいい匂いがするよ」
「あぁ、そうでした」

折角キョーコにと買ってきた鯛焼きだったが、キョーコが居なくては渡せない。
次の現場への差し入れにしようかとも一瞬考えたが、麻里子の期待が籠った視線に蓮はそれをあっさり諦めた。
皆さんで食べて欲しいと、ホクホク顔の麻里子に鯛焼きを渡した。

明日食べられるようにキョーコの分はちゃんと取っておくから大丈夫だと笑う麻里子に、蓮と社は頭を下げて管理室を出た。

キョーコに直接鯛焼きは渡せなかったが、次会えた時にはきちんと謝ろう。何ならもう一度、焼きたての鯛焼きを携えてキョーコに会おうと考えながら、蓮は次の現場へと向かった。



**



む…。この汚れはガムね。

LME芸能プロダクションの従業員もそろそろ慣れた、奇抜な作業着を着たキョーコは今日も変わらず事務所の掃除をしていた。

誰よ、廊下にガムなんて捨てたやつ。踏んでしまった人も悲劇だけど、それを掃除する私だって悲劇なんだからね?
ガムだけを綺麗に拭き取ると、その周りの床との輝きの差が気になっちゃって、床全面ピカピカに磨きたくなるんだから。
でもそれをやると、床を滑って転ぶ人続出の悲劇の連鎖が待っている事を私は知ってるのよ。

何故なら一度やってしまったから。

大物女優を転ばせた時は本当に怖かったなぁ。
怒りでお化粧にひびが入って行くのを間近で見る事になっちゃったんだもん。

その時の女優の顔を思い浮かべながら、ごしごしと床を磨いていたその視線の端に、手入れされた黒い革靴が映り込むとその足取りが止まった。
どうしたのだろうか。通行に自分が邪魔なのだろうかと思いながら顔を上げると、少し困ったように眉を下げた男前が、キョーコを見下ろしていた。

「やあ、こんにちは」
「何かご用でしょうか?」
「君を探してたんだ」

キョーコはガムが拭き取れたことを確認して立ち上がったキョーコは思わず一歩後ずさった。

視線の先にいるのは、間違いなく先日自分を放り投げた人気俳優だ。若手実力派No.1と言われて、その端正な顔で世の女性達を魅了している。その上均整のとれた肢体と身のこなしで、海外有名ブランドのイメージモデルもこなしている、キョーコとは住む世界が違う人物だ。

その人気芸能人が、キョーコに向かって頭を下げていた。

「先日は事情も知らずに、君に無体を働いてしまい本当にすまなかった」
「あっ頭を上げてください」
「すぐに謝りたかったんだけど、なかなかチャンスが無くて。そのまま仕事で地方に行っていたせいで、謝罪がどんどん遅れてしまったんだ」

頭を下げたまま謝罪を続ける蓮にキョーコは大いに慌てた。

「分かりましたから。もういい加減頭を上げてください」
「本当にごめんね」

ゆっくりと頭を戻し、それでも申し訳なさそうにする蓮を、キョーコはまるで怒られた犬がしょげ返っているようだと思った。

「もういいですから。次からは不審人物を見つけたら、実力行使の前にまずは職務質問する事をお勧めします」
「う…。本当にごめん」

上目遣いで蓮を見つめながら茶目っ気たっぷりに笑うキョーコの表情に、蓮はもうキョーコが怒っていない事を悟った。
キョーコもほっと息をつく蓮に、ようやくもう気にしないで良いのだと伝わったのだと苦笑した。

「それより鯛焼きご馳走様でした」
「美味しかった?」
「はい!私、あそこの鯛焼き大好きなんです。あのお店、麻里子さんに教えてもらったんです」
「え、麻里子さんの?」

蓮は複雑な笑いを作った。
キョーコの好物を教えてもらったつもりだったのに、本当は麻里子の好物を手土産にしていたらしい。
してやられたと笑った蓮に、キョーコは慌てて言い募る。

「でも、私も本当に甘喜廊の鯛焼き、大好きなんですよ?尻尾まであんこがみっちり入ってて。最初から最後まで幸せが詰まってるんです!」
「なる程。確かに目一杯詰まってたね」
「敦賀さんも食べました?」
「うん。粒あんをね」

それがその日の蓮の昼食替わりだった。
麻里子に渡した物とは別に自分たち用に1匹ずつ購入していた鯛焼きを、蓮と社は頬張りながら移動した。
パリパリの薄皮の中に、ほど良い甘さに炊かれた粒あんがぎっしり詰まった鯛焼きは、普段甘味を好んで食べない蓮でもぱくぱくと食べられる美味しさだった。

「皆も喜んでましたよ。本当にご馳走様でした」

ペコリと、丁寧に頭を下げるキョーコを、蓮は優しい目で見つめていた。
蓮が差し入れしてくれた鯛焼きのうち2匹が、キョーコの為に翌日まで冷蔵庫で待機していた。
その日、風邪から復帰したベテラン清掃員の頼子と2人でその鯛焼きを温め直してお昼に食べたのだと、キョーコは笑いながら蓮に伝えた。

一匹だけでも幸せが一杯詰まっていたと言うのなら、もっと大量の鯛焼きをぎっしりと積めこんだ箱を渡したら、一体どんな笑顔を見せてくれるのだろう。

「こんなに喜んでくれるなら、また買ってくるよ」
「本当ですか!やったー」

そんな社交辞令ともつかない言葉を素直に喜んで笑ってくれるキョーコを、蓮は可愛い思った。



「あ、そろそろ行かないと」

事務処理を終えたらしい社からのや呼び出しに震えるスマホを、蓮は時間切れかと少し恨めしげに操作した。もう少し残務処理をしてくれても次の現場には間に合うのにと、残念に思う気持ちに気付いて蓮は苦笑した。
こんな短時間のうちに、ついさっきまではどうやって謝ろうかと考えていたキョーコの事を気に入ったらしい。
謝罪をするりと受け入れられたからと言って随分と現金な男だなと笑う蓮を、キョーコは不思議そうに見上げていた。

「私ももう終わりなので支度しなきゃ。それじゃあ失礼します」
「バイトは終わりなの?もしよければ送っていこうか?」

掃除道具を手に取ったキョーコに、蓮はついでだからと声をかけた。
蓮は、マネージャーの社以外の人物を乗せた事のない車だという事も忘れキョーコを誘っていた。
今まで女優やモデルたちが蓮に送って欲しいと色を含んだ視線で見つめられても、それら全てを体よく断って来たと言うのに。
きっと今のやり取りをその女性たちが見ていたら、ドピンクのつなぎを着た少女に負けたと歯噛みをしていたに違いない。

そんな事情など何も知らないキョーコは、その申し出をあっさりと断った。

「私、自転車なんで。これから小料理屋さんのバイトです。そのお店、魚料理が美味しいんですよ」

特に鯖味噌が絶品なのだと笑って、キョーコは挨拶をして蓮に背を向けた。



つづく。



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